第52話 恋バナしたいお年頃④
「てかウチらばっか話してるけど、言い出しっぺのみーさんはどうなの?」
「あ、私も聞きたいっ。お嬢様の恋愛事情!」
季詠は、ずずずい、と身を乗り出した。
「身分違いの恋、引き裂かれる二人。けれどもその障害が二人の愛を育むの!」
「脳みそがハーレクインに侵食されてるなー」
一人で盛り上がってうっとりしている季詠に愛音がツッコミを入れた。
「わたくし自身の恋バナですか……」
どこか沈んだ表情になる御言。
「申し訳ないのですが、ご期待に沿うようなお話はできないのです。家の方針で男女交際が禁止されていまして……。それに小・中と女子校通いでしたから、男の子との出会いは全然ありませんでした。ですから後学のためにと、皆さんから恋バナをお聞きしようと思い立ったのです」
「そっか。生粋の箱入り娘なんだね」
「はい、ひと箱いくらの無垢で可憐な量産型箱入り娘です」
(量産型と言うには変わり者過ぎると思うけど……)
失言の過去がある詞幸は胸の内で思うに留めた。
「年頃の異性からは隔離された生活を送っていましたから、恋愛ですとか性の経験には乏しいということになっています」
「え、なっている?」
詞幸が聞き返すも、御言は口元を隠して微笑むのみだ。
「うふふっ、わたくし、なにかおかしなことを言いましたか?」
「いやだってさ――」
「おいおい、ふーみんっ。女に対してそういうことを詮索するなんてデリカシーがないぞ!」
愛音はビシッと人差し指を詞幸に向けた。
「そこは知らないフリしてやるのが礼儀ってもんだろうが。ミミはお嬢様なんだから、屋敷の地下室で夜な夜な淫靡な享楽に耽ってるに決まってるじゃないか!」
「凄い偏見だな、お前」
よくそんな発想になるな、と織歌は呆れを通り越して半ば感心してしまう。
「兄貴のやってるエロゲーではそうなってる。お嬢様の常識はアタシたちの常識とは違うからな。どうしても倒錯した趣味になってしまうんだよ」
すると、御言が珍しく強い口調で否定した。
「愛音ちゃん、わたくしそんないかがわしいことしていませんっ。適当なこと言わないでください!」
場の空気が僅かに緊張する。
冗談めかして発言した愛音も表情を強張らせた。
御言がゆっくりと口を開く。
「わたくしはそんなことしません。正しくは、屋敷の離れで、昼間から、お姉様が、淫靡な享楽に耽っているのです」
「…………………………………………」
部室内に沈黙が横たわった。
「ほっ、なーんだ驚かせるなよー。まったく、ミミも人が悪いなー」
「うふふ、情報は正確でないといけませんからね。ちゃんと訂正しておかないと」
「さて、次はふーみんの番だよな?」
「えええ!? いまのスルーしていい話なのっ!?」