第51話 恋バナしたいお年頃③
「きゃはははははっ、マジウケるんだけど! ききっぺ、サイッコー!」
「もおっ、詩乃笑いすぎ!」
愛音に10年前の過ちを暴露され、季詠は赤面するほかなかった。
その羞恥は耐え難く、逆に話題を振ってこの状況から逃れようと試みる。
「そういう詩乃はどうなのっ? 初恋の失敗談みたいなのないの!?」
「えぇ~? あるにはあるけどさぁ……別に面白い話じゃないよ?」
「いいではありませんか。苦い恋の思い出も青春の1ページです。聞かせてくれませんか?」
御言が尋ねると、巻き髪を指で弄びながら、返事の代わりに短い溜息をついた。
「ウチにもね、中1のときカレシがいたことあんの。初恋でさ、バスケ部で、学年で背が一番高くて、結構派手なコだった。ホントは小学校の頃から好きだったんだけど、ウチもまだ奥手だったから告れなくて……だから向こうから告ってきたときはメッチャ嬉しかったなぁ」
詩乃は、まるで遥かな過去の記憶を探るようにしみじみと言い、虚空を見つめている。
「で、付き合って1週間くらい経った初めてのデートの時だったんだけど、服のセンスとか行き先とか、なんか趣味が合わないからデートの途中でフッた」
「うわ酷い!」
見も知らぬ男子に同情してしまい、詞幸は思わず口を開いてしまった。
「イヤイヤ酷くなんかないって! むしろウチの方が被害者じゃない? ずっと好きだったのに、しょーもない男だったんだよっ? 恋してた時間返してほしいくらいだし!」
なんという暴論だろうか。勝手に好きになっておきながら、付き合ってみたら自分の趣味に合わなかったというだけで被害者面をするなんて。
詞幸は女の怖さを目の当たりにして眩暈に襲われた。
「で、その失敗をちゃんと活かそうってことで、いまはとりあえずデートしてから好きになってもいいか考えるようにしてんの。だけどなかなか合う男子がいないんだよねぇ」
考え込むように頭を押さえている詞幸のことは無視して詩乃は続ける。
「初めてのデートで手ぇ繋ごうとしてくるのはがっついてて童貞っぽくてイヤだしぃ、恋愛映画を選ぶってのもありきたりでつまぁんない。ほんっとセンスない。別に付き合ってから見にいくのはお互いの気持ちを高めるとか雰囲気づくりとかでいいかもだけどさぁ、付き合う前の好きでもなんでもない段階で見にいってもしょうがなくない?」
興が乗ってきたのか、まるで目の前に過去のデート相手がいるかのように熱弁する。
「そっちから告ってきたんだからウチに好きになってもらいたいんでしょ? だったら自分はこんなにいい物件ですよってアピらないとダメじゃん。ありきたりなチョイスされたら、はいはいまたこのパターンね、ってなるだけだし。アンタの個性を好きになるかどうか大事なトコなんだからさ、無難にまとめようとしないでもっと攻めっ攻めできてほしいワケ――って思わない?」
詩乃は女性陣に同意を求めるように首を巡らせた。
しかし一同の反応は鈍い。
そんな中、愛音は「うーん」と唸り、難しい顔で腕組みをしたまま問うた。
「…………なー、しののん。まさかお前、その条件にさらに顔の良さとか頭の良さとか気が利くとか将来性があるとか、なんかハイスペックな条件をプラスする気じゃないよな?」
「はぁ? そんなのフツーの条件でしょ。カッコ悪い男子もヤだけど、カッコいいだけの男子もヤじゃん」
この返答に愛音は憐れむような目を向けた。そして、平素よりも優しい声音で教え諭した。
「そんなこと言ってるとどうせ行き遅れるぞ。結婚相手に求める年収は1千万です、って言っていつまでも結婚できないヤツいるだろ? お前はアレだよ」
「そ、そんなことないし! 変なこと言わないでよ! ウチは25歳までに絶対結婚するから!」
「まぁ、答え合わせは10年後だな」
ピッと音がしたあと、織歌はスマホの画面を見せてニヤついた。
ボタンをタップすると、『――ウチは25歳までに絶対結婚するから!』と詩乃の声が流れるのだった。
「くくっ、もし結婚できてなかったら相当に傷つくぞ。せいぜい気をつけろよ」
「くぅ~っ、彼氏持ちの余裕がムカつくぅ~~!」