第50話 恋バナしたいお年頃②
織歌の恋バナが終わり、愛音は薄い胸を張って宣言した。
「次はアタシが恋バナを披露する番だな」
(!! 愛音さんの恋バナ!? やばい、まだ心の準備が――っ!)
「きゃははっ、お子ちゃまのアンタに恋バナなんてできんのぉ?」
嘲るように詩乃が笑う。
「馬鹿にすんなよ、アタシだって伊達に16年間生きてないんだっ。恋愛経験くらい話せらー!」
コホン、と一つ咳払いを挟んで続けた。
「アタシがする話もルカと同じで初恋のことだ。まー、このメンバーにわざわざ言う必要はないと思うが、初恋の相手は勿論キョミだ」
愛音の初恋と聞いて一人ドキドキしていた詞幸はほっと胸を撫で下ろした。
「はいはい、やっぱりそんなことだろうと思ったぁ。面倒見てくれるからって頼ってるだけで全然恋愛関係ないじゃん」
「そんなことないぞっ。アタシはキョミのことが滅法好きだし、キョミもアタシのことを好きだってちゃんとわかってるんだぞ」
詞幸は、十日ほど前にした嘘の告白のときのことを話しているのだと思った。あのとき、異性との恋よりも愛音が大切だ、と季詠は言ったのだ。
だが、愛音はこんな風に語りだした。
「アタシが小さい頃の話だ」
「いまもちっちゃいじゃん」
「むーっ、さっきから茶々入れて話の腰を折るなよー!」
詩乃を軽く睨み、愛音は語気を強めて言い直す。
「よ・う・ち・え・ん・の・こ・ろ、アタシは髪もショートカットで男みたいなカッコをしてたんだよ。自分のこと”オレ”って言ってたし、ほかのヤツらに交じって戦隊ヒーローごっこをしたりしてな」
口は挟まないが、その代わりになぜか季詠は俯きがちになっていく。
「同い年の男連中よりアタシの方が女にモテてたな。キョミもそんなアタシのことを『愛音ちゃんしゅきしゅき~』って言って『おっきくなったら愛音ちゃんのお嫁さんになる~』ってプロポーズまでしてくれたんだぞ! これが恋でなくてなんだと言うんだ!」
「あら~。それはそれは――」
頬に手を当てて生暖かい視線を送る御言から逃れるように、季詠は両手で顔を覆った。
「やめて、そんな目で見ないで! 恥ずかしいから!」
「にひひ、そう恥ずかしがるなよー。あと数年もすれば女同士でも子供を作れるようになる」
季詠の指に自らの指を絡める愛音。
「ほら、あの頃みたいに毎日ほっぺにちゅーしてくれていいんだぞ?」
「もおっ、こんなことならもっと休めばよかった!」
風邪がぶり返したように顔を真っ赤にする季詠だった。