第49話 恋バナしたいお年頃①
「今日は恋バナをしましょう」
全員が席に着いたところで、御言が今日の活動テーマを提案した。
「高校生と言えば青春、青春と言えば恋。わたくしたちは青春真っただ中の健全な高校一年生です。若いカラダを持て余さずに恋ができるよう、常に雄と雌の関係について情報を得なくてはいけないのです」
「表現がまるで健全じゃない……」
詞幸の呟きは当然のごとくスルーされた。
「では早速ですが、恋と言えばこの人。我が部で唯一恋人がいる織歌ちゃん、お願いします」
「はぁ、仕方ない。話題の方向性からこうなるのは当然か」
「へぇ、意外と素直じゃん。てっきり嫌がるかと思ったのに」
詩乃が問うと、織歌はセミロングの髪をかき上げ、澄ました顔で答えた。
「お前らがしつこく聞いてくるのは想像がつくからな。無駄な抵抗はしない」
御言が恋バナをすると話を振った時点で、織歌は自分が標的になるのはわかっていた。
女が三人寄れば姦しい。しかも女三人ではなく四人+男一人で、恋愛の話とくればなおのことやかましいはずだ。
「ただし、面白い話はできないぞ」
こういうときは恥ずかしがったり狼狽えたりしてはならない。相手が面白がって攻勢を強めるからだ。逆に淡々と簡潔に話せば、相手は興味を失って矛先を変える。
「じゃあ質問だけどぉ、コジャっちってカレシのこと『アイツ』って呼ぶじゃん? アレなんなん? 名前で呼ぶの恥ずいの?」
ニヤニヤと笑いながら詩乃が質問する。しかし織歌にはその意図が見え見えだった。
(安い挑発だな)
「別に。名前で言ってもお前らにはわかりづらいと思って敢えて口にしなかっただけだ」
わざとそっけなく答えると、詩乃はつまらなそうに頬を膨らませた。
「普段はなんと呼んでいるのですか?」
「光志だから『コウ』と呼んでいる」
「確か家が隣同士の幼馴染だったよね? 昔からその呼び方なの?」
今度は季詠が身を乗り出してくる。
「いや、なんのひねりもないが、昔は『コウちゃん』だったな」
「ね、その頃から好きだったの? いつ頃から自分の気持ちに気づいたの?」
「そうだな……意識し始めたのは小5からかな」
「えっ、じゃあ5年も片思いだったのっ? きゃっ、切なーいっ(>_<)」
「………………」
興奮する季詠の熱量が予想外に大きかったため、訝しげな眼を向ける。すると、愛音が嘆息して解説を始めた。
「キョミはけっこう恋愛脳だぞ。クラスでもよく恋バナに首突っ込むし、誰と誰が付き合ってる――とか詳しいし、ドラマも本もそっち系ばっかだし。あとはよく恋愛映画借りてくるな。さすがにカップルがウジャウジャいる映画館で見たりはしないけど」
「恋愛脳じゃありませんー。乙女として当然の思考ですー」
季詠はつん、と子供っぽく拗ねてみせた。
「ね、それでそれで? どっちから告白したの? どんな言葉だったのっ? 初デートはっ? あ、手はもう繋いだよねっ? 恋人繋ぎでしょっ? ファーストキスはしちゃった!? しちゃったなら感想聞かせて聞かせて!? あと、結婚はいつ頃したい? 住まいは戸建てかマンションか、子供は何人で、私立に通わせるつもりは」
「お前はファイナンシャルプランナーか!」
その瞳に映る興味の色に辟易しながらも、織歌は自身の恋愛体験を語るのだった。