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第4話 あるある(?)

「あ……愛音あいね、さん……?」

 昼休み。ややの逡巡による間を隔てて、詞幸ふみゆきはようやっと少女の名を口にした。

 歯切れの悪いその発音に、呼ばれた方は渋い顔と共に腕を組んで応えた。

「う~む……微妙に疑問符がついているのが気にかかるが、まぁいいだろう、合格だ。今後もっと精進に励むがよいぞ、ふーみん」

「え? あ、うん、ありがとうございます……?」

(いつの間にか俺のあだ名が『ふーみん』に決まってる……)

 喜びと困惑とが入り混じった微妙な表情になる詞幸だった。

「よっし。一件落着したところでさっさと食べるか」

 愛音のその声を合図として、3人は半ば放置していた弁当箱に手を伸ばす。

 愛音は白猫のキャラクターがあしらわれた赤い弁当箱。季詠きよみは水色のストライプ模様のものだ。女子の弁当箱などまじまじと見たこともなかった詞幸は、その小ささを目の当たりにして、二人とも足りるのだろうか、と心配になってしまう。

 蓋を開けた愛音は「やった、唐揚げだ」と喜色を表し、詞幸はその仕草に頬を緩ませた。

 愛音はパックの豆乳を飲んでから口を開く。

「キョミには話したことがあるんだが――」

(『キョミ』? ――ああ帯刀たてわきさんのことか。季詠だから『キョミ』ね)

「アタシは『小鳥遊たかなし』っていう名字が嫌いなんだよ。ふーみん、お前『小鳥遊』の読み方の由来知ってるか?」

 小首をかしげると、愛音はフン、と鼻を鳴らした。

「絶対強者たる鷹のいない空ではひ弱な小鳥たちでも自由に飛び回って遊んでいられる。だから小鳥が遊ぶと書いて『たかなし』と読むんだそうだ。なんとも後ろ向きな理由だろう?」

 嘆かわしい、とばかりに頭を横に振ってみせる。

「確かにアタシはロリロリだが鷹には負けない。アタシなら、鷹が我が物顔で飛び回る空でも堂々と旋回をして存在を誇示してやる。臆病風に吹かれる小鳥共と一緒にされては困るのだよ!」

「か、かっこいい……」

「……かっこいい、のかな?」

 詞幸は羨望にも似た眼差しを向け、季詠はその光景に微苦笑した。

「それとな、これは初めて話すんだが――アタシがこの名字を嫌う理由が、実はもう一つあるんだ」

 声を落とし、目を伏せる愛音。

「そのせいでアタシは好奇の目に晒されているのではないか――そんな恐れが拭えないんだ」

 長い睫毛が微かに震える。

 詞幸はそこに確かな憂いを感じ、聞いていいものか迷う。しかし、意を決して先を促した。

「…………それは、なんで……?」

「それは――――」

「それは…………?」

「それは――――――――」 

 ゴクリ。唾を飲み込んで続く言葉を待つ。

「『小鳥遊』という名字はエロゲーのヒロインに多いんだよ!」

「へ…………?」「はい…………?」

「だーかーらー、エロゲーヒロインに多いんだって! エロゲーじゃなくてもギャルゲーとかハーレムラブコメなんかにけっこうよく出てくんの! アタシは周りのヤツらから『うわ、あいつツンデレヒロインみたいな名前だな』とか『デート2回でイケるくらいチョロそう』とか思われるのが嫌なの!」

 語気を荒らげる愛音から詞幸は目を逸らし、

「いや、ごめん。俺には全然わかんないや……」

 季詠は眉間を押さえて深く息を吐いた。

「お願いだから、女の子が大声でそういうこと言わないで……」

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