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第48話 お嬢様の読書事情

上ノ宮(かみのみや)さんってさ、けっこう漫画読むよね」

 ちょうど1冊読み終えたところの御言(みこと)に声をかけた。

 紅茶を片手に読み進める姿があまりにも優雅だったので英国文学でも嗜んでいるように見えたが、実際は恋愛ものの少女漫画であった。

 部室の本棚には漫画本が多く並んでいる。どれが誰の私物か詞幸(ふみゆき)にはわからなかったが、女子部員が8割を占めているので必然的に少女漫画が多い傾向にある。

「あら、意外ですか?」

 詞幸の言葉のニュアンスを読み取って御言が返す。

「うん、最初に見たときはそう思ったかなあ。いまはもう日常風景って感じだけど。ほら、見た目も雰囲気も上品だから、漫画なんて低俗だーって言うイメージが先入観としてあって」

「あら、上品だなんて。おだててもなにも出ませんよ?」

 口元を押さえて、くすくすと笑う。

 しかし、すぐにどこか寂しそうな表情になった。

「確かにお父様はそういう考えの持ち主ですけど、わたくしの場合はその教育の反動が出てしまったのでしょう。抑圧されていた分、解放されて一気に爆発したと言いましょうか……」

 本の表紙を愛おしそうに撫でる。

「とはいえ、いまでも家で漫画を読むことはありません。あくまでも学校の中――この場でのみ、わたくしは漫画を読めるのです」

「お嬢様って言ってたもんね。やっぱり厳しい家なんだ」

「お父様が検閲をするのです。屋敷に持ち込んだ本、雑誌、DVDに、携帯電話やパソコンの閲覧履歴も。わたくしは漫画の代わりに小説を読むことしか許されず、それも恋愛要素や性的表現の過激なものは一切読ませてくれませんでした」

 それは、どれだけ窮屈な生活なのだろうか。

 平均的な一般家庭に生まれた詞幸には想像もつかない。ただ、気安く感想を言っていいような境遇ではない気がした。

 そんな雰囲気を察したのか、御言はおどけたように言う。

「うふふ、そのせいでこんなに歪んだ性格になってしまったのですけど」

(自覚はあったんだ……)

「あらあら? ここは、そんなことないよ、と否定してくれる場面では?」

「そういうとこだから! そういうとこが歪んでるんだって! ――はっ!」

 御言が軽く言うものだから、詞幸もつい茶化すように応じてしまったのだが、彼女はしゅんと俯いてしまっていた。

 完全に失言だった。

「ご、ごめん……」

「……自分で言う分にはいいですけど、他人から言われると傷ついてしまいますね……大変ショックです……。わたくしは、そんなに歪んでいますか? 可愛くない性格ですか?」

「そんなことないよ、可愛いよ! そういう変わったところも上ノ宮さんの魅力だから!」

「――うふふっ、ありがとうございますっ」

 コロっと表情をいつものにこやかなものに変える。そして、はにかみながら頬を押さえた。

「でも、そんなに熱っぽく可愛いなんて言われたら照れてしまいます……」

「あ……」

 詞幸は誘導尋問にまんまと引っかかったのだった。

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