第46話 顧問のお仕事③
「おい、ふーみん。いくらさゆりんの巨乳が気になるからってそんなにチラチラ見るなよ」
愛音が指摘すると、紗百合はサッと胸を隠すように腕を差し出した。
「み、見てないですよ! え、みんなもなにその目……そんなことしないよ、ほんとだよ、疑わないでよ……」
しかし、詞幸の目が泳ぐのを織歌は見逃さなかった。
「誤魔化すのが下手だな。必死に否定すると怪しさが増すぞ」
「詞幸のエロ幸ぃ」
「うぅっ……」
「まぁまぁ、そんなに責めてやるなよ。本能には逆らえないんだから仕方ないだろう? アタシも見るな、とは言ってない。『チラチラ見るな』と言ったんだよ」
詞幸に労わりの目を向け、愛音は肩を竦める。
「さゆりんだって男どもの無遠慮な視線には慣れたもんだろ?」
「まぁいい気分ではないけど……中3くらいからもう視線は感じてたから、慣れっていうのはあるわね」
「男子って基本馬鹿だからねぇ。太ももなんかもそうだけどさ、ガン見もチラ見も変わんないから。こっちはどっちもバッチリわかってるっつの」
小馬鹿にしたように詩乃は鼻で笑う。その視線は詞幸に向いていた。
「あっ、わかるー。むしろチラチラ見られる方が目の動きでわかりやすいのよねー」
すると、我が意を得たり、とばかりに愛音がほくそ笑んだ。
「ふーみん、いまの聞いたかっ? チラチラ見ようがガッツリ見ようが関係ないんだとさ。アタシたちの動きは完全に筒抜けなんだ。だったらガッツリ堂々と鑑賞した方が目の保養になると思わないか?」
「え、でもそれって失礼なんじゃ……」
「馬鹿野郎ッ、失礼なワケあるか! こんだけ大層な代物をお持ちなんだ! むしろじっくりねっとり見てやらない方が失礼ってもんだろーが!」
「……ッ!」
それは衝撃的な一言だった。まさに天地がひっくり返るような、これまで考えたこともない発想に詞幸は一瞬放心した。
「――た、確かに愛音さんの言うとおりかも……! 先生、俺、さっきからチラチラ盗み見てすみませんでした! これからはじっくり鑑賞します!」
「ちょ、えっ? なんでそういう流れになるのよ!?」
一礼の後、物凄い眼力で胸部を凝視してくる詞幸に、紗百合は狼狽することしかできない。
「困るわ、こんなことっ……小鳥遊さん、あなたが元凶でしょう!? なんとかして!」
「うるさい! そんなアブナイもん持ってる方が悪いんだ、このHランクめ! これは危険物取扱責任者の義務だ!」
「わたしだって好きでこんなカラダになったわけじゃ」
「こちとら安全性能最高評価のAAAランクだぞッ! アタシにさゆりんの気持ちはわからない、さゆりんにアタシの気持ちがわからないようにな!」
巨乳には憧れるが、妬まずにはいられない。
それは、愛憎が複雑に乱れる慟哭だった。