第39話 目撃者は語る
「折檻をする雰囲気ではありませんね。もっと観客が温まっていないと楽しい折檻はできませんから」
そんなことを言って、御言は昨日の部活では折檻を行わず、実施を今日に変更したのだった。
(ていうか『楽しい折檻』ってなんだ?)
B組の3人は並んで特別教室棟に向かって歩を進める。詞幸にとっても最早習慣化した光景だ。
「よっすよっす~……」
途中で憂鬱そうに肩を落とす詩乃が合流した。いつもの軽い挨拶にも覇気がなく、空気の抜けた風船みたいだ、と詞幸は思った。
「詩乃、大丈夫? 具合が悪いなら休んだ方がよくない?」
「あんがと、ききっぺ……でもこれ折檻が嫌なだけで身体はなんともないから……逃げたらもっとヒドいことされそうだし……」
足を引きずるようにして歩く詩乃の姿は痛々しい。
詞幸も心配せずにはいられなかった。
「そんなに顔色悪くするなんて……なにされるかわからないから怖い、って感じじゃないよね? 縫谷さんは前にも上ノ宮さん直々の折檻を受けたことがあるの?」
下手に気休めの言葉をかけるよりも、感情を吐き出させて気を楽にしてもらった方がいい。そう考えての質問だったが、それは逆効果だった。
「話せるわけない、あんなこと……っ。やめて、ウチに思い出させないで……!」
(トラウマになってる……いったいなにをされたらこうなるんだろう)
顔を下向けて視線で愛音に問いかけると、彼女は首を捻った。
「どうもアタシが休んでたときにやっちゃったみたいなんだよなー。だからアタシも詳しいことは知らん。キョミはその場にいたんだっけ?」
「えっ、私っ?」
愛音が話を振ると、季詠は上ずった声をあげて狼狽した。
そして、どうしてものかと視線を彷徨わせ、口元に手をやって思案すること約十秒。
「ダメ! やっぱり私からも言えない!」
顔を赤くした季詠が両頬を押さえる。
「女子同士とはいえ、あんなことをしたなんて……」
「えっ、エロいのか? エロいやつなのかっ?」
愛音の円らな瞳が見開かれ、キラキラと好奇心で輝く。
「どんなんだったんだっ? 聞かせてくれよー、なーキョミー。ちょっとだけでいいから教えてくれよー、頼むよー」
季詠の手を取って駄々っ子のように足をバタつかせる。季詠はそっぽを向いてだんまりを決め込んでいた。
(ますますわからなくなってきた……エロくて楽しい折檻ってなんなんだ……?)
疑問は深まるばかりである。