第37話 能力者たち
印象的な自己紹介にするにはどうすればいいか――
それぞれから「モノマネを織り交ぜる」「ヒップホップのメロディーに乗せる」などの意見が出て、詞幸はその都度「じゃあ、ふーみんが手本を見せてくれるから」とムチャぶりをされていた。
「わはははっ、ウルトラマンのマネで白目向くなよお前っ、確かにそう見えるけどっ、ははははっ」
羞恥心よりも恋心に重きを置く彼はこれをあくまでもポジティブに捉え、愛音の期待に応えた。その度に笑いが生まれ、会話が弾んでいく。
(さっきから俺ばっか恥かいてるけど、まあ愛音さんが笑ってるのが可愛いからいっか)
そして、一人一回は意見を出し終わった頃、御言が「ところで」と切り出した。
「皆さんは『メラビアンの法則』というのをご存知ですか? アメリカの心理学者メラビアンが提唱したもので、それによると第一印象は出会ってからの3~5秒で決まる、と言っています。また、コミュニケーションで相手に与える印象の割合は、見た目や表情といった視覚情報が55%、声や話し方の聴覚情報が38%、そして言語情報――つまり話の内容はたった7%しかないとのことです」
「えーとつまり、目で見て数秒でその人の印象は決まっちゃうから、長々とした話の内容なんてわりとどうでもいいってことなの?」
思案顔で季詠が疑問を投げかける。
「はい、そのとおりです。なのでこれまで皆さんが一生懸命出してくれた意見にはなーんの意味もありませんっ」
悪びれることもなく御言はにこやかに言い放った。
「逆に言うと、難しいことを考えなくても笑顔でいれば大抵の人は好印象を抱いてくれる、ということです。ほら、わたくしの作り笑顔も上手でしょう?」
「それ作り笑顔だったの!?」
御言が両の人差し指を自分に向ける。
「うふふっ。詞幸くんもこの笑顔のおかげで、初対面のときわたくしのことを『綺麗な人だな』って思ってくれてましたよね?」
「なんでわかるの!? 上ノ宮さんってエスパー!?」
話術部に初めて来たとき、まだ御言のことを知らなかったため、そう思ってしまったことを思い出す。
「えーっ、なにそれウチのことは全然綺麗とか思ってなかったのに! せっかく可愛く『よろしくね☆』っつったのに『うわ、ギャルだ』って思ってたっしょ!?」
「凄い、当たり! え、実は話術部って超能力者養成機関なの?」
「いや顔に出てただけだし、口も動いてたし。つーか『綺麗とか思ってなかった』ってところは否定しろっての!」
激昂する詩乃に睨まれ、詞幸はただ平謝りするしかないのだった。