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第36話 初めての(まともな?)活動

「よっすよっす~」

「すみません、遅くなりました」

「やあ、二人とも……」

「遅かったじゃない……」

 一緒に部室にやって来た詩乃(しの)御言(みこと)を出迎えたのは、困り顔の詞幸(ふみゆき)季詠(きよみ)、そして叫び声と足音からなる騒音だった。

「このっ、ちょこまかと……っ!」

「わははははははっ、誰か助けてくれー! ルカに殺されるー!」

「なんなんこの状況……?」

 楽しそうに笑いながら逃げる愛音(あいね)と怒りを(ほとばし)らせて追う織歌(おるか)を見て、困惑気味に詩乃が呟く。対照的に、御言は爛々と瞳を輝かせていた。

「お部屋の中で鬼ごっこ、楽しそうですね! 織歌ちゃんが鬼ですかっ? わたくしも混ぜてください!」

「おっ、ミミもやるか!」

 愛音の横に並ぶと仲良く逃げ回る。障害物の多い狭い室内ではぐるぐると同じところを回ることしかできないが、それでも楽しそうに二人は走る。

 その幼稚な様を見て己の愚かしさにも気づいたようで、織歌は足を止めると脱力した。

「少し取り乱した、忘れてくれ……いい年して何をしてるんだ、わたしは……」

 ばつが悪いのか誰とも目を合わせず、とぼとぼと自席に戻ると両手で顔を覆った。

「えー、もう終わりですか? もっと遊びたかったのに……今度はわたくしのおうちのお庭でしましょうね? 鬼ごっこ」

「うん、やろうね……」

 なぜか自分の方を見て言うので詞幸はとりあえず頷くしかなかった。

 嵐のような騒がしさが過ぎ去り、各々が定位置の席に向かう。「いい汗かいたー」とブラウスの胸元をパタパタする愛音に視線を奪われながら、詞幸も最もドアに近い席に腰を下ろした。

 席の位置は、部長である御言が詞幸の正面である窓際に座り、詞幸から見て右奥から織歌、詩乃。左手奥から季詠、愛音、という配置だ。

 全員が席についたところで御言がパンッと手を鳴らして小首を傾げた。

「新メンバーが加わって初めて全部員が揃ったのですから、今日はちゃんとした議題に沿って話をしましょう。本日の議題は――」

 御言はぐるりと全員の顔を見渡し、わざわざタメを作った。

「『効果的な自己紹介について』です。皆さんはもう詞幸くんとのご挨拶は済ませていると思いますが、ちゃんと印象的な自己紹介はできましたか? 複数人が順番に自己紹介をするような場合、適当なアピールだと自分を覚えてもらえません。そこで今日は、相手の記憶に残るような、印象的な自己紹介について考えてみましょう」

「ほえー……なんだかほんとに真面目な部活っぽいね」

 まるでマナー講師であるかのような御言の語りに、詞幸が感嘆の声を漏らした。

「なにか一つの答えを出そうっていうのじゃなくて、皆の意見を元にお喋りするのが目的みたいなものだから、難しく考えなくても大丈夫。真面目なのは最初だけで、実際はいつも大喜利みたいになっちゃうの」

 季詠が説明を加える。

 と、愛音が机に身を乗り出し、めいっぱいに手を挙げてアピールした。

「はいはいっ、アタシ昔流行ったっていう自己紹介知ってるぞ!」

「はい、それでは愛音ちゃん、実演してくれますか?」

 おう、と力強く返事をして、愛音は大きく息を吸い込んだ。

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人――」

「おいやめろ……」

 遠雷のように低く唸る声がセリフを遮った。

 声のした方向を見るとそれは織歌だった。顔を俯け、しかし鋭い眼光が射抜くように愛音に向けられている。

「その台詞をそれ以上口にするな……ッ。ぐぅっ、だめだ胸が苦しい……!」

「その反応――まさかっ、お前……ッ?」

小鳥遊(たかなし)、お前にも人の心があるのならそれ以上は聞くな……さっきのことは水に流してやるから、頼む……わたしに黒歴史を思い出させないでくれ……ッ!」

 若さゆえの過ち。

 忌まわしい過去は、どんなに苦しくても消し去ることはできないのだ。

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