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第29話 正直者

「ごめんね愛音(あいね)さん」

 音楽室からの帰り、連れ立って歩いていた詞幸(ふみゆき)からの何度目かわからない謝罪に、愛音はもういいよ、と片手を挙げて応じた。

「アタシだって中身まで子供じゃないんだ。誠心誠意の謝罪であれば受け入れる分別くらい持ち合わせてる」

「ありがとう……心が広いんだね」

 御言(みこと)によって二次被害のような辱めを受けたとは思えぬ寛大ぶりに、詞幸は胸に手を当てて感じ入った。その様子に気を良くした愛音も、ふふんと鼻を鳴らす。

「健全な魂は健全な肉体に宿ると言うだろ? なら大きな心の持ち主は逆説的に大きな体になるはずだ。アタシはそれを実践しているに過ぎないのさ」

「さっすが愛音さん、素敵なガバガバ理論だね!」

「お前本当はアタシを怒らせたいんだろ?」

 失言を取り繕おうとしてへどもどする詞幸。それに愛音はやれやれとばかりに嘆息した。

 その時。

「あっ、ナッシーじゃん。よっすよっす~」

 底抜けに明るい声が飛び込んできた。

「おっ、しののん! こんなところで会うとは奇遇だな」

 愛音に『しののん』と呼ばれた声の主は愛音に飛びつくと頭をポンポンと叩く。

「あっれぇ、もしかしてまた縮んでない? 成長期ならぬ半減期? ってそれは原子か。いくらナッシーでもそこまで小さくないもんね~」

「うがーっ! また身長のことでアタシをいじりやがってー」

 愛音は腕の中で暴れるものの、その表情は嫌がっていない。

(ああ、こんな愛音さんもいい……)

 そんなじゃれ合う二人を詞幸は温かい目で見つめていた。

「ってそういえば、お前部室の掃除サボっただろ!」

 腕の拘束から逃れた愛音が指差すと、『しののん』は視線を逸らして口笛をピューピューと吹き始めた。

「部室の掃除……?」

 彼女も話術部員なのか、と首を傾げる詞幸を見て、いままでその存在を忘れていたかのように愛音は手を打った。

「あ、そうだっ、ふーみんにも紹介しないとな。こいつは――」

「はぁい、1Eの縫谷(ぬいや)詩乃(しの)でっす。好きな色はペールピンクで、好きなものはふわふわともこもこ。よろしくね☆」

 親指から中指の三本ピースを「ね☆」のところで左目の横で倒すと同時にウインク。

(うわあ……ギャルだ)

 詩乃の自己紹介とその派手な容姿に詞幸は圧倒されてしまった。

 大きく開けられたシャツの胸元には学校指定のリボンがネックレスのように下がっていて、シャツの上に羽織ったカーディガンは親指の付け根が隠れるほどブカブカだ。胸元まで伸びる明るい色の巻き髪はふわふわとしており、詩乃の制服の着こなしは全体的に緩くまとめられていた。

「で、こっちの男子は?」

 上向きに整列した睫毛をパチパチと動かし、愛音に催促する。詞幸は自分が名乗っていないことに気づいた。

「あ、俺はB組の月見里(やまなし)詞幸。愛音さんのクラスメイトで――」

「話術部の新入部員だ」

 詞幸の自己紹介を愛音が引き継ぐと、詩乃は「げぇっ」と声を上げた。

 可愛らしい見た目とは裏腹に発せられた蛙のような声に、詞幸も愛音もきょとんとする。

「どうした? 無類の男好きのクセに嫌なのか、しののん。お前ずっと男との出会いを求めてたじゃないか」

 愛音が疑問を口にすると、詩乃は「男好きは余計だし」とジェルネイルの施された指で髪をくるくると巻きながら言った。

「いやぁ、だってぇ、男子なら誰でもいいってわけじゃないしぃ。見た目もなんかアレだし」

「アレ!?」

 オブラートに包まない生の反応に詞幸は傷ついた。

「おい失礼な言い方はやめろ。こんなのだって生きてるんだぞ」

「こんなの!?」

 傷は深く、心を抉った。

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