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第294話 もうすぐバレンタイン、なのに

 2月。

 冬の進みはほかの季節よりも早い気がする。クリスマスを終えて、正月を迎えて、気が付いたらもうバレンタインデーが近づいてきている。

 アタシらはバレンタイン用の買い物のために来ていた。ルカは来てない。

「やっぱ渡すなら手作りっしょ♪ てか買って渡すだけだとみーさんの財力には絶対叶わないし」

「あら、わたくしも買って済ませるつもりはありませんよ? といっても、手作りとも少し異なりますが」

「ん? 買うのでも手作りでもないの? じゃあ御言(みこと)はチョコを渡すわけじゃないってこと?」

「はいっ。身体にチョコを塗って『わたくしを食べてください❤作戦』でいこうと思っています!」

「…………みーさん、それクリスマスで失敗したヤツじゃん……」

「あぁ、あれ……大きな箱から飛び出してきて『わたくしがプレゼントです』っていうの……。ユキくんも引いてたよね……」

「そ、そんなことはありません! きっとあのときはミニスカートのサンタ衣装が似合っていなかっただけです! 今度はチョコとリボンだけで隠すのですからほぼ裸、似合わないという次元ではありません! わたくしの裸力(はだかりょく)で勝負です!」

「いやいや絶対ドン引かれるって! 抑えるどころか悪化させるってどーゆー神経してんの!?」

「御言はなんでそういうエッチな方面で攻めようとするのかなぁ……。というか、なにを参考にしたらそういう変なアイディアを思いつけるの?」

「今回は冬コミの同人誌からアイディアを拝借しました! 当然18禁ものです!」

「駄目だこりゃ……」

 3人はふーみんにどんなものを渡すかで盛り上がっていて、アタシは完全に蚊帳の外だ。最初から輪の中に入るつもりがないと誤魔化すように、商品を選ぶフリをしながら距離を取った。

 ショッピングモールの中はどこを見渡しても赤とピンクのハートが散りばめられていて、まるで『お前も恋をしろ』と迫ってきているようだった。

 それが悪いことだとは思わない。むしろ、そうやって期限を設定してくれることで、迷っていた心に踏ん切りがつきやすくなるヤツもいるだろう。

 まー、あくまでそういうヤツがいるってだけで、誰もがそれだけで決心できるわけじゃーない。そしてアタシもそういうヤツじゃない。

 ただ、その日までにはどうにかしなければという強迫観念を押し付けられている気分だ。

 ルカに相談してからもずっとアタシは悩み続けて、それでも依然迷ったままで、袋小路にしか辿りつけてない。来た道を戻ってはまた同じようなところでグルグル迷い続けている。

 恋愛に(いだ)いていた、キラキラふわふわのイメージとかけ離れた自分が惨めで仕方なくて、なにもかもがバカらしくなる。あの3人のように笑っていられたらどんなにいいだろうか。

 でも、アタシはアイツらにはなれない。アタシにとって、恋なんてただつらいだけのものだ。

 こんなことなら、ふーみんのことなんて好きにならな――

「あ~いねっ。ふふっ、今年は愛音(あいね)からどんなチョコを貰えるのかな~。楽しみにしてるねっ」

 キョミが、いつの間にかアタシの隣に立っていた。思考に沈んでいたから気づかなかった。

 楽しそうで幸せそうなその顔は、まるで別の星の住人のように見える。

「あっ、でも、愛音もそろそろ好きな男子ができたりしてるのかな? だったら一緒にチョコ作ろっか。な~んて、ふふっ――え?」

 アタシは酷いヤツだ。

 きっとキョミは、アタシと仲よくしたくて、アタシの力になりたくて、善意からそんなことを言ったのに。

 親友なのに。

 浮かれやがってとか、アタシの気も知らないでとか、誰のおかげでお前は笑っていられると思ってるんだとか、一瞬、そんなことを思ってしまった。

 八つ当たりもいいとこだ。アタシはこうするのがいいと思って、自分のために選んだのに。

 キョミはそのことを知らないのに、伝えてないのに、勝手に怒って、ただのバカだ。

 けど、それはアタシの本音だった。一瞬で湧き上がった感情は、だからこそ誤魔化しようもなくて、初めて知る自分の醜さにショックを受けた。

 そんな感情の動きに、アタシの小さな心は耐えきれなかったらしい。

 でも、だからって、泣くこたないだろ…………。

「愛音…………」

 声を出して泣くなんて惨めな真似はしない。いや、涙を流すだけで十分惨めか。

 泣いてる自分がみっともなくて、余計に涙が溢れてくる。

 こんなところでいきなり泣いて、キョミだって困ってるはずだ。

 けど、キョミは、アタシを優しく抱きしめてくれた。人目なんて気にせず、アタシのためを想って、ぬくもりで包んでくれた。

「ごめんね……」

 苦しそうな声でそう言われて、やっぱり思う。

 アタシは酷いヤツだ。

 涙なんて流さなければ、キョミはドキドキのバレンタインを楽しく過ごすことができたのに。

 幸せな恋に(ひた)ることができたのに。

「気づかなくてごめんね……」

 ここで泣いちゃったら、キョミにアタシの気持ちがバレちゃうだろうが……。

 親友なんだから。

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