表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/301

第28話 もうやめてください

「随分と楽しそうに話してるな」

 詞幸(ふみゆき)御言(みこと)と話していると不機嫌そうな声が投げかけられた。

 愛音(あいね)だ。口をへの字に曲げて腕組みをし、全身から怒りのオーラを放っている。

「アタシへの狼藉も忘れていいご身分なこった」

 刺々しい声とともに詞幸を睨みつけるように見上げる。

「ごめん愛音さん、さっきは俺酷いこと言っちゃって……」

「ふんっ」

 ひたすら謝る以外の解決策が思いつかず、とにかく詞幸は謝意を口にするしかなかった。

「キミを傷つけるつもりはなかったんだ。俺、愛音さんが許してくれるならなんでもするから……」

 しかし、心からの謝罪もそっぽを向いて拒絶の意を表されてしまう。

「ぷいっ」

(やっぱり可愛い……)

 話を聞いてもらえていないにも関わらず、詞幸は思わずほっこりしてしまう。

「あらあら」

 そんな二人の様子を御言は口元に手を当てて交互に見やった。

「事情はよくわかりませんが、喧嘩ですか? 喧嘩ですね?」

 どこか楽しそうに二人に確認する。

「ん……ミミ、ちょっと」

 女として受けた被害は同性と共有した方が共感を得やすい。

 愛音は事の経緯を御言に耳打ちしようとした。が――

「ふっ……ぐぐぐ……」

 身長が足りず、背伸びをしても御言の耳まで届かなかった。

「…………」

 御言は無言で、視界の中で栗毛がぴょんぴょん跳ねるのを楽しんいる。

「俺が言うのも変だけど、愛音さんの話を聞いてあげて……」

 詞幸が言うと、ようやく御言は渋々といった様子で膝を折った。

 愛音が詞幸を指差したりチラチラ視線をやりながら耳打ちすると、御言はふんふんと頷きながら目を見開いた。

「まあなんてこと! 詞幸くんがそんな酷いことをする卑劣漢だったなんて!」

「そうだそうだ! もっと言ってやれ言ってやれ!」

 味方を得て調子に乗った愛音が拳を突き上げる。

 それに応えるように、御言も芝居がかった仕草と口調で続けた。

「見損ないましたよ! 穢れを知らない無垢でいたいけな少女の身体を、己の情欲の()(ぐち)にするだなんて!」

「…………なあミミ? ちょっと声が大きいんだが……」

 音楽室中から好奇の視線が集中する。

 なんだなんだ、と近寄って来る者もおり、詞幸は委縮してしまい反論する気さえ起きない。

「この未発達な青い果実を(ほしいまま)に凌辱するとは!」

「もういいってミミ! もう十分だから!」

 顔を赤らめた愛音が縋りつく。

「いいえ、わたくしは愛音さんの怒りが収まるまで糾弾をやめません! 女としての悦びを知らぬその華奢な――」

「もう許すから! お願いだからやめてくれ!」

 羞恥に悶える愛音の悲痛な叫びが響いた。

 すると御言は表情をコロっと柔和なものに転じ、

「はい。二人とも、喧嘩はほどほどに。仲良くしないと駄目ですよ?」

 聖母のごとく優しく戒めた。

「「はい……」」

 それに力なく従うしかない二人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ