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第288話 見たくない未来

 わかりきっていたことだが、いまのアタシの悩みをマルっと解決できるようなアイディアがルカから出てくることはなかった。

 当然だ。そんなものがあるなら恋愛絡みのいざこざはこの世からほとんどなくなっているはずだからな。もし考案できたらノーベル平和賞もんの功績だろう。

「結局、みんなで幸せになるにはやっぱりハーレムルートしかないわけか……」

 友情を壊さずに恋を成就させる方法として、それ以外の方法は思いつかない。

「ハーレムルートってお前な……ギャルゲーじゃないんだから……」

「いや、アタシだって本気で言ってるわけじゃないぞ? ギャルゲーとかエロゲーのハーレムルートってのは、舞台が異世界かなんかでこの世界と常識が違ったり、ヒロインたちが妊娠したところまでで物語が終わって、リアルな部分の描写をしなかったりするから幸せに見えるだけだ。あんなの現実世界で上手くいくわけないだろ。ご近所さんに後ろ指差されて子供が学校でイジメられるぞ」

「そうか、正常な認識をしているか。お前が分別のあるやつでよかったよ。上ノ宮(かみのみや)は本気で月見里(やまなし)のハーレムを作ろうとしているみたいだがな」

「マジか! じゅるり……」

「おい、なに心揺らいでるんだ」

「べ、別に揺らいでなんかないぞ! 好きな男と一緒にいられるうえにたくさんのおっぱいに囲まれるなんて最高だな、とは思ったけど!」

「語るに落ちているじゃないか……」

 ルカはやれやれと肩を落とした。お前アタシに対してそのリアクション多くないか? もっとバリエーション増やせよなー。

「いや、真面目な話、世間体がどうこうじゃなくてアタシはハーレムにあんま魅力を感じないんだよなー。男としての立場ならもちろん最高だろうが、たくさんの女のうちの一人になるのって普通は嫌じゃないか? 好きな相手には自分だけを見てほしいって思うのが当然だろ?」

「考え方が意外と乙女だな。普段とのギャップが酷いぞ」

「ぶー! お前にだけは絶対言われたくない! 彼氏と二人きりのときのお前はキャラが違いすぎるんだよ! 喋り方まで変えやがって! ギャップ萌えも大概に――と、危ない危ない。脱線するところだった」

 ルカが「なんで知ってるんだ」と疑問を口にしたが、この前たまたま盗み聞きしたことを素直に白状する気にはなれなかったので、アタシは無視して続ける。

「そう考えると、あいつらのいまの関係は奇跡的なバランスで成り立ってるよなー。あれでよく喧嘩にならないもんだ」

「ああ、それはあいつらがみんな痛みから逃げてるからだろうな。ハーレムの存在を許容すれば、自分は傷つかないし、相手を傷つけることもない。共同幻想のなかで甘い夢を見られる」

「共同幻想に甘い夢…………。つまり、いつかは覚めるってことか?」

「ああ、長くは続かないだろう。あいつらはそれぞれ自分が月見里の1番になりたいと思っている。もし自分以外が特別扱いされたら、あの関係はすぐに瓦解するだろうな」

「けど、ふーみんなら『みんなのことは平等に1番大好きだよ』とか言いそうじゃないか?」

「そう言われたとしても、実際にそうだったとしても、信じられなければ意味はない。みんなを平等に愛してるなんて都合のいい台詞を真に受けるほど、アイツらは純粋でも馬鹿でもないだろう。それが嘘だと誰かは疑うだろうし、普段の自分への扱いに差を感じて、反発して、欲求不満となる。そうなると、いまの穏やかな関係ではいられなくなるだろうな」

「じゃー……そんなことになったら、アイツらはもう友達じゃなくなっちゃうのか?」

 アタシが心を決める前に、なにかのきっかけでキョミと、ミミと、しののんが疎遠になる。

 アタシの友達でなくなるだけじゃなくて、アイツら同士も友達でなくなる、なんて――

「話し合った先に折り合いが付けば――妥協点が見つかればそうはならないだろうが……どちらにせよ、それは衝突があったあとの話だ。衝突自体は避けられるようなものじゃない。いずれ、喧嘩なんて生優しい表現では済まなくなるような衝突が起きるだろうな」

 ――それは、あまりにも寂しい。

「もし一夫多妻制なんてものが採用されて、あいつらの関係が社会的におかしなものでなくなったとしても、そのなかですら争いは必ず起こる。いまの友達以上恋人未満の関係のままだろうが、夫婦になろうが、一人の男を複数の女が求める以上争いが起きないなんてことはない。お前が夢見たような、何事もなくみんなが仲よしのまま、なんてことはありえない。行きつく先が幸福だとしても、その途上で誰かが傷つき、それを誤魔化したまま笑うことになる」

「それは……………………つらいな」

「どんなにつらかろうとも現実とはそういうものだ。諦めるほかない。元々恋愛というのはハイリスクハイリターンなんだ。ベットするのは己の人生。人生の意味とも言えるような大きな幸福を得られる可能性がある代わりに、人生の意味を失うような手酷い傷を負う危険性もある」

「恋って、怖いな…………。キラキラしてるだけじゃないんだな…………」

 そんなものなら知らない方が幸せだったんじゃないか、ふーみんのこともただの友達として好きなままならよかったんじゃないか――とは、なぜか、思えなかった。

「それは誰にしたって同じことだ。誰もが恐怖の中で足掻いている。だから、幸せが欲しいのなら、ほかの誰かの幸せを踏み躙らなければならない。その事実はどう言い繕ったところで変わるものじゃないが、恋を取るか友情を取るかはお前が決めることだ。わたしが差し出口を挟むようなことじゃない」

 最後にルカは、優しい目でアタシを見て、優しい笑顔で、優しい声で、こう言ったのだった。

「ただ、わたしはお前たちがそうならないように祈ってるよ。お前たちはわたしにとって得難い友人で、お前たちが仲違いしている未来なんて見たくないからな」

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