第286話 Gauge Empty
「『どうすればいいと思う?』か…………。それを考える前にもう少し教えてくれないか?」
ルカは優しくて、憂うような表情をアタシに向ける。
「小鳥遊は、どういう経緯で月見里のことを好きになったんだ? なにかきっかけがあったのか?」
「……きっかけなんてない。いや、強いて挙げるとすれば、告られたことがきっかけかもな……」
この3か月余りのうちに、アタシたちの間でなにか劇的な出来事が起こったなんてことはない。
ふーみんと二人きりになるような機会もなかったんだ。まー、それは、アタシがそうならないよう意識的に避けていたってのもあるんだがな。
とにかく、それまでの日常とちょっと違った、探り探りなただの日常が繰り返されただけだ。
「いままでふーみんのことをそういう目で見たことはなかったんだが……モグモグ……告られてから――振ったあとふぉ、なんだか意識するひょうになって……モシャモシャ……目で追うようにふぁっふぇ……パクパク……気がついたら、好きふぃなっへふぁ…………ゴックン」
「なるほど。『そういう目』で見るようになったわけか……」
「ふぁあ、ふぉふぉふゅふふぉふぉふぁふぁ」
「なにを言ってるかわからん! ものを食べながら喋るのをやめろ!」
ルカが机を叩いて怒りだした。さっきまでの慈愛に満ちた表情はもうない。
「あ、ルカもいるかー? おっ、なんかいまのダジャレみたいだな! わははははっ!」
「いらん!」
「えー、美味いのになー。あっ、もしかしてお前きのこ派か? だからアタシがたけのこの里を食べてるのに対してそんなに怒ってるのか?」
「違う、わたしは中立派だ。どっちも入っている袋タイプのものを買うからな――ってそうじゃない!」
ルカは再び机を叩いた。手ぇ痛くならないのか? あっ、ちょっと痛がってる。
「お前のために真面目な話をしてるのになんなんだ!? さっきもそうだが、シリアスな空気がぶち壊しだろう! お前も真面目に話せ!」
「えー、無理。もうシリアス展開ゲージが残ってないもん」
「お前がシリアスな話をするのはゲージ消費技だったのか……」
「だってシリアス展開って苦手なんだよー。ほら、1クールアニメの10話とか11話で突然入ってくる誰得シリアスとかさー。こっちは頭空っぽにしてハーレムアニメを楽しんでるのに、いきなりヒロインの留学とか意見の食い違いで喧嘩するとか、ああいうの求めてないんだよなー。娯楽なんだからもっと楽しくないと」
「これはお前の恋愛の話だろう! アニメなんぞと一緒にするな!」
「一緒だよ。アニメだって恋愛だって、自分を幸せにするためのものって点ではな。大体、こっちはふーみんに告られてからずっとシリアス展開なんだぞ? 少しはコメディー展開で息抜きさせろ」
「まぁ、表現はおかしいが言いたいことはわかる……」
「わかってくれたか。なら、早速アタシに異世界転生者並にチートな恋愛攻略術を教えてくれ!」
「はぁ…………お前の好きなアニメの傾向がわかったよ……」
ルカはそこで嘆息して、やれやれと肩を落とすのだった。ハーレムと異世界転生をバカにするってことは、どうやらコイツは質アニメ厨らしい。ケッ。