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第273話 文化祭2日目⑭ ハッキリ言葉に

(しまったああああぁぁぁぁぁぁッ!! 口が滑ったあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!)

 誤爆だった。盛大な誤爆だった。

 元々ここで告白する予定はなかったのだ。屋上に連れてきたのも、いい雰囲気になったらいいなあ、程度の考えしかなく、深謀遠慮の末の選択だったわけではない。

(それがまさかこんなことになるなんてえぇぇ…………。いや、でも過ぎたことをウジウジ言ってても仕方ないんだ! このまま押し切るしかない!!)

 覆水盆に返らず。いまさら言ったことをなかったことにはできない。

 ならばここは男らしく、改めて正々堂々と想いを伝えなければ。

 拳を握り締めて不安と恐怖を押し込める。

愛音(あいね)さん!!」

 詞幸(ふみゆき)は顔を上げ、いまだ呆けたままの愛音の瞳をまっすぐに見据えた。

「俺は思いっきり人生を楽しんでるキミに憧れて、無邪気に笑う可憐なキミに惹かれたんだ!!」

 想いは、伝えなければ伝わらない。それは詞幸が伝えられた側として実感したことだ。

 誰もが想いを秘めている。しかしそれは外から見ただけで簡単にわかるようなものではない。

 だから、言葉にしなければならない。そして、言葉にしたい。

「キミのことが好きだ!!! 俺は愛音さんを幸せにしたいし、愛音さんと幸せになりたい!!!」

 心の中にあるものをそのまま取り出したような叫びだった。

 本当ならばもっと凝った台詞で告白したかった。練りに練った最高にカッコいい言葉を贈って最高の告白にしようと、前々からそれだけは決めていたのだ。

 けれど流れのままの勢い任せの告白となり、だからこそ、彼の言葉は飾り付けられたものではなく、真実の心しか映していない。

「………………………………」

 依然として愛音は呆けたままだったが、やがてゆっくりと右手を頭の後ろにもっていき、弱ったように髪を撫でつけた。

「あー……なんかアタシ疲れてんのかもなー。なんだか妙な聞き間違いをしたような気がするんだよなー。なー、ふーみん。お前はいまなんて言ったんだ? すき焼き?」

「まさかの難聴系ヒロイン!?」

 魂の叫びにも似た告白をスルーされ、彼は膝から崩れ落ちそうになる。

 だがそれでも彼は諦めなかった。全身に力を漲らせ、裡から溢れる想いを再び言葉にする。

「好きだって言ったんだよ!」

「すき家かー。アタシは松屋派だなー」

「牛丼の話はしてないよ! キミのことが好きなんだ!」

「なるほど、わかったわかった。アタシも卵は白身より黄身の方が好きだぞ」

「そうじゃなくて! 愛音さんのことを愛してるんだ!」

「あー悪い。両耳に大量のゴミが入って聞こえなかった。って、おいおい、もうこんな時間かよー。閉会式が始まるし、そろそろ戻るかー」

「ちょっ、なんで聞こえてないフリするのさ!」

 詞幸は横を通り過ぎようとする愛音の肩を掴んで目を合わせた。

「俺は愛音さんのことを女子として好きだって言ってるんだよ!」

「わはははっ、おいおいふーみん。そんな風に言ったらまるでお前がアタシのことを女として見てるみたいじゃないかー。勘違いするだろ。お前の好きってのはどうせ友達として好きだっていう友情の確認的なアレだろ?」

「違う! 恋愛感情としての好きだよ!!」

 力いっぱい否定すると、それまで頑ななまでに冗談めかしていた愛音の表情が遂に揺れた。

 目は泳ぎ、唇は震えている。

「えーっと……それっていわゆる恋人になりたい的な……」

「そう! 恋人になりたいっていう好きだよ!」

「……あう……つまりけっこ――」

「結婚したいっていう好きだよ!!」

「…………てことは、セッ、セッ――」

「●ックスしたいっていう好きだよ!!!」

「ハ、ハッキリ言うなバカーーーーーーーーーーーーーッ!!!///」

「ぐぶふっ!!」

 詞幸はその胸にヘッドバットをお見舞いされたのであった。

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