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第272話 文化祭2日目⑬ 屋上の告白

「おー! こんなとこ初めて来たぞ! いっつも鍵かかってんのに今日はラッキーだなー!」

 『占いの館』をあとにした詞幸(ふみゆき)愛音(あいね)の姿は、部室のある特別教室棟4階のさらに上、普段は立ち入り禁止となっている屋上にあった。

「文化祭実行委員が垂れ幕で校舎を飾ったりする関係で、いまだけは鍵を開けてるんだってさ」

「なるほどなー。でも出入りが許されてるのは実行委員だけで、立ち入り禁止区域なのは変わらないんだろ?」

「うん、見つかったらきっとこっぴどく怒られるよ」

「にひひっ、それがわかっててアタシを案内するなんて、ふーみんも相当のワルだなー!」

 詞幸の脇腹を小突いて愛音は笑う。

「けど、元はと言えばこんな気持ちのいい場所を立ち入り禁止なんかにするのが悪いんだ」

 そう言って彼女は空を受け止めるように腕を広げ、深く息を吸った。

 西から射す太陽の光で空の青は白みがかりつつあった。昼間の暑さも和らいでいて、時折吹く風が爽やかに体を通り抜けていく。

 夏の残り香をいっぱいに吸い込んで、愛音はぷはっ、と息を吐いた。

「あー、屋上って感じがする!」

「ははははっ、なにそれ!」

「むー、屋上って感じは屋上って感じだよ! 笑うんならお前も深呼吸してみろ。アタシの言ってることがわかるから」

 頬を膨らませて言うので詞幸もやってみることにした。

 両腕を広げて天を仰ぎ、鼻から肺に空気を取り込んでいく。限界が来たところで「ぷはっ」と吐き出した。

「どうだ?」

「うん、なんか屋上って感じがする!」

「わははっ、だろー? 壁も天井もないから解放感があるし、いつもより空に近いからなんか特別な感じがするんだよなー。あと、学校が舞台の漫画とかアニメの影響で憧れがあるってのも大きいよなー」

「わかる! 学園ものの屋上ってなんであんなに魅力的なんだろうね! こんな青春送りたいなーって思ってたのに中学の屋上は立ち入り禁止でさ、希望が粉々に打ち砕かれたもんだよ」

「でもこうしてお前のおかげでやっと来られたんだ。にひひっ、ありがとな」

 愛音は空を見上げてクルクルと回りながら屋上の中央に進んでいく。

「あー、楽しかったー! 文化祭ってのはこんなに楽しいもんなんだなー! アタシ的学校生活で憧れるものランキングで屋上と並んで堂々1位だからな! 美味いもん食べて思いっきり遊んでみんなで頑張って思い出を作る! 最高のイベントじゃないか!」

 と、彼女の回転がピタリと止んだ。

「来年の文化祭もきっと楽しいんだろうな……。お前らはやっぱりバカやりながら、きっとまた面白いことやるんだろうな…………。楽しそうだな…………」

「愛音さんなに他人事みたいに言ってるの? 来年だって再来年だって」

「ふーみん! あのな!」

 彼の言葉を鋭く遮って、続く言葉は弱々しく、彼女は声を震わせた。

「アタシ、転校するんだ……」

「…………………………え?」

 世界から音が消えたような気がした。自分が発した声さえも耳に届かない。

 頭が麻痺している。

「噓、だよね…………?」

「ああ、嘘だ」

「ちょっとおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

「わはははははははははははははははッ!!! やーい、騙されてやんのーーーーーーッ!!!」

 詞幸の叫びと愛音の哄笑が木霊する。

「なんでそういう心臓に悪い嘘つくのさ!!!」

「わはははっ、悪い悪い! 屋上ってこういうシリアス展開する定番スポットでもあるだろ? 折角だしやってみたく――ぷっ、わはははははははははははははははははははッ!!!」

「もおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 笑い過ぎだよおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 愛音は涙を浮かべて腹を抱えている。詞幸は恥ずかしさに涙を浮かべて頭を抱えた。

「ああぁぁぁもうやだ! 恥ずかしくて死にそう! 死にたい! いっそ殺してえぇぇ…………!!」

 身体を丸めて詞幸は縮こまる。そんな彼を励ますように愛音はその背中をバンバンと力強く叩いた。

「はぁはぁ……あー、笑いすぎて苦しい! いやー、それにしても、アタシが転校するって言ったらあんなに取り乱してくれるのな!! 嬉しいけどなんかちょっと恥ずかしいぞ!!」

「そりゃ取り乱すよ!! 俺、愛音さんのことが好きなんだから!!!」

「…………………………………………は?」

「………………………………………………あ」

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