第26話 むにゅぅ
「てゆーかこれ、アタシだけ笑点みたいで滑稽だな……」
揺れるクッションタワーの上で愛音がぼやく。
「やっぱりその体勢じゃノートはとれそうにない?」
「んんー、机に届かないわけじゃないんだけどな……」
問いかける詞幸に、前傾姿勢をとって見せた。
「このとおり、腕が短いロリロリ体形のせいで、届いてもギリギうおっ――」
そのとき、愛音がバランスを崩した。
「危ないッ!」
詞幸は咄嗟に腕を伸ばす。
季詠の短い悲鳴、軽い衝撃、周囲に散らばるクッション――
それらが織りなした緊張感が去ったあと、転倒しかけた愛音の小さな体は幸いにも、詞幸の腕に収まっていた。
「だだ大丈夫ッ? 愛音さん! ごめんね俺が調子に乗ってクッション積みすぎちゃったから……」
「…………」
愛音は何も言わず、スッと体を起こして乱れた制服を整えたあと、詞幸を見上げた。
「な、なに愛音さん……?」
じぃっと上目遣いでただただ見つめられ、狼狽する。
(――ハッ、これってもしかして……)
この様子を見た季詠のセンサーが反応した。
(危ないところを助けてもらった女子が男子に淡い気持ちを抱いてしまうという定番パターンなのでは――?)
口元を両手で覆い、胸を高鳴らせる季詠。
愛音の口が開き、持ち上がった右手の人差し指が詞幸を照準する。
詞幸も季詠も、紡がれる言葉を待った。
「――ふーみんにおっぱい触られた」
「「え……?」」
頭から抜けたような呆けた声が出た。
「アタシを助けるためというのはわかるが、女の胸を触っておいて謝罪の言葉もないというのはどういう了見だ、お前!」
「そうなの!? 月見里くん!」
スカートの裾を後ろ手に押さえて季詠が非難の目を向ける。不可抗力だったとはいえ詞幸には前科があるのだ。
「さ、触ってないよ!」
上向けた両の掌を閉じたり開いたりを繰り返して感触を思い出す。
「だって硬かったもん! あれは肋骨だよ!」
「――っ!? どうせアタシは無乳だよ、バァーカっ!」
「ヘゲシっ!」
小さな体から放たれた正拳突きは、綺麗に鳩尾に決まったのだった。