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第261話 文化祭2日目② 性別

 根が真面目な彼のことである。クラスメイトの仕事中に自分たちだけサボるようなことは気が咎めるのだろう。休憩のためなら、と詞幸(ふみゆき)は念を押したうえで寄り道を受け入れてくれた。

 提案した季詠(きよみ)にも良心の呵責はあったが、いまだけは不真面目でいたいという心の声に抗うつもりもなかった。

「それで、どこ行く? 人から見られない所がいいよねえ」

「う~ん、それなら…………ねぇ月見里(やまなし)くん、あそこ行ってみない? 外から中の様子が見えないようになってるし」

 暗幕が張られた2年生の教室を指差した。ハロウィンのような飾り付けがされているそこには《占いの館》と看板が出ている。

「うわっ、あれは……!」

 と、詞幸が一歩後退る。その顔は蒼ざめてすらいるようだ。

「えっ、そんなに占い嫌いなの? ごめんね、それじゃあ別の所にしよっか」

 彼とのあれこれを占うというのは魅力的で後ろ髪を引かれる思いだったが、ここまで嫌がるのを無理強いはできない。そう思ったのだが、彼は首をブンブンと横に振って否定した。

「いやいや嫌いだなんて全然! むしろ好きだから畏れ多くて近寄りがたいと思っちゃったんだよ! なにしろ当たり過ぎるせいで普段は占いを封印してる人がやってるって噂だからさ!」

「へぇ、初耳。そんなすごい人が占ってくれるんだ」

 俄然興味が湧いてきた。そんな人に占ってもらえるなら、この想いの行き先ももっと明るいものになるかもしれない。

「じゃあ折角だし入ってみよ? その人がいまシフトかはわからないけど」

「う、うん…………」

 強張った動きの詞幸を伴って《占いの館》に入っていく。

 運のいいことに例のその人はシフト中ということだったので受付で指名し、案内されて暗幕の回廊を進む。その間、詞幸はお化け屋敷にでもいるかのように怯えていて可笑しかった。

「失礼します」

 そこに足を踏み入れてまず感じたのは、異様なまでに張りつめた空気だった。

「…………………………」

 漆黒のローブを身に纏い、同じく漆黒の三角帽子を被った少女が座っている。

 僅かに覗くその眼光は鋭く、見る者を委縮させるオーラを放っていた。

(うわっ、すごい雰囲気のある人だなぁ。私たちより1学年上なだけなんて思えないくらい。月見里くんが畏れ多いって言うのもわかるかも)

 見れば占い師の少女は詞幸のことをじっと見つめていた。そして詞幸は小さくなって俯いている。もしかするともうすでに彼の未来を見通しているのかもしれない。

「どうぞ、こちらに」

 険のある声に促され、季詠も詞幸の緊張が伝染してしまったかのようにぎこちなく席に着く。

「よろしくお願いします」

 季詠が頭を下げると、占い師の少女はなにも言わず彼女の瞳をじっと覗きこんだ。

「あ、あの……」

 その双眸に射すくめられて戸惑っていると、やがて占い師はゆっくりと口を開いた。

「二人ですね」

 見ればわかるだろうになぜいまさらそんなことを聞くのだろうか。疑問に思いながらも季詠は首肯した。

「はい」

「両方とも女の子ですね」

「? いえ、片方は男子ですけど」

 季詠は首を傾げ、詞幸を手で示す。

 すると占い師も季詠と同じようにキョトンと首を傾げた。

「? いえ、ですからあなたたちの子ど」

「はははっ! 占い師さんったら帽子のせいで初対面の俺の顔がよく見えなかったんだよ!」

 詞幸が占い師の前に身を乗り出した。

「ほら、よおく見て占い師さん、俺は男だよ! 俺は男だよお!」

「ちょっと、なんなんですかあなた! いきなり顔を近づけないでください!」

「どうしたの月見里くん!? 緊張で変になっちゃったの!?」

 その後、占い師の彼女が「初対面なので性別を間違えてしまいました。ごめんなさい」となぜか不服そうに謝ったことで、事態はなんとか収拾したのだった。

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