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第259話 文化祭1日目⑰ スクウェア

「あ、先生」

 詞幸(ふみゆき)詩乃(しの)が2年の階の校舎端まで見終えたところで紗百合(さゆり)に出くわした。

 生徒たちがコスプレに興じることの多い文化祭中であっても教師である紗百合が羽目を外すことはなく、むしろ動きやすさを重視してか、いつもよりも地味な服装である。

「あら、あなたたち…………デート中なの?」

 紗百合は詩乃と詞幸の顔を交互に見て言った。詩乃が答える。

「デートですよ~」

 その答え方があまりにも大っぴらなものだったからか、紗百合は一瞬怯んだようだった。

「はぁ……まさか御言(みこと)ちゃんと縫谷(ぬいや)さんが月見里(やまなし)くんのことを好きだったなんてね。ずっとみんなのこと見てきてるつもりだったけど、全然気づかなかったわ」

「そりゃ“つもり”になってただけだからじゃないですかぁ? ユリせんせー全然部活来ないもんね。ウチらのことわかるワケないじゃん」

「うっ……なかなか厳しいこと言うわね。そういうのロジハラって言うのよ」

「正論だって認めちゃうんですか……。そう思うんならもっと部室に来てくださいよ」

 しかし新米教師の域を出ない紗百合が多忙の身であることは事実である。無遠慮に責めていい問題でもなかった。

「話を戻すけど、本当にビックリしたのよ。まぁ年頃なんだしそういう感情が芽生えるのがむしろ普通なんだけど、正直なところ、話術部の中であんまり月見里くんの扱いがいいとは思ってなかったから」

「まあ確かに、若干雑な扱いは受けてますけどね……」

 話術部には気の強い女性陣が多い。詞幸は三歩下がって歩くような立場なのだ。

「そんな月見里くんだから断れなかったのかもしれないけど、別々の女の子とデートするのってアリなの? あたし恋愛ごとって疎いからよくわからなくて」

 部室で文化祭の流れを話し合っているところには紗百合も同席している。彼が今日の午前中に御言とデートしていることも当然知っているのである。

「あ、ごめんなさい。ちょっと意地悪な質問だったかしら。心情的には付き合いが長い分御言ちゃんを応援したいから、つい。教師という立場的には誰かを依怙贔屓えこひいきするなんていけないんだけど」

「ヒドーい、ユリせんせ~! いまウチのこと完全に邪魔者扱いした~!」

「あうっ、ごめんなさいね縫谷さん! あたし全然そういうつもりで言ったんじゃないのよっ?」

 慌てふためく紗百合だったが、詩乃も特に気分を害したわけでもなさそうだった。あっけらかんとこんなことを言う。

「まぁ別にいいですけどぉー。そもそも詞幸はウチとかみーさんじゃなくてほかに好きな人がいるし」

「ちょっと詩乃さん!」

「え、そうなの?」

 唐突に暴露され詞幸も慌てたが、しかしここではぐらかすのも男らしくないと思い、彼は正直に話した。

「――そうです。俺はほかに好きな人がいます。そんな状態で二人とデートするなんて、俺も不誠実かなって思ってます。けど、それを知ったうえで二人共俺のことを好きだって言ってくれるから、その気持ちに応えない方が不誠実だと思って……」

「月見里くん…………」

 紗百合は驚きに目を見開いて彼の話をじっと聞いていた。

「そんなにあたしのこと好きだったのね」

「……はい?」

「でもごめんなさい。あなたとあたしは生徒と教師。とっても嬉しいけどその気持ちに応えることはできないわ!」

「いやいやいやいや!」

「恥ずかしがらなくてもいいの! さっきだって、もっと部室に来てほしいって言ったじゃない!」

「なにこのお花満開脳みそ! 詞幸の話全然聞いてない!」

「あたしと文化祭デートができないから、代わりに御言ちゃんと縫谷さんで寂しさを紛らわせていたのね!」

「はぁッ!?」

「縫谷さんはそれに耐え兼ねて告白を促した! ううっ、あたしのせいでこんな切ない恋の四角関係(ラブ・スクウェア)ができていたなんて!!」

「いい加減止まれこのバカ教師~~~~~~~~~~~~!!」

 その後、詞幸が好きなのは愛音(あいね)だと告げられた紗百合の羞恥に乱れた惨状は、筆舌に尽くしがたいものであった。

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