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第25話 ネコ猫ねこ

「おはよう愛音(あいね)さん。はい、プレゼントだよ!」

 愛音の登校を待ち構えていた詞幸(ふみゆき)は、挨拶する時間も惜しいとばかりに切りだした。

「んお? おう、ありがとう……」

 差し出された物体がなんであるか認識しないうちに、愛音は反射的にそれを受け取る。

 自身の顔よりも大きなそれに焦点を合わせると、訝しげだった愛音の顔はすぐに綻んだ。

「おお! なんだよこれ、メチャクチャ可愛いじゃないか!」

 それは猫の顔をかたどった白いクッションだった。デフォルメされたとぼけた表情が愛嬌を振りまいている。

「これホントにアタシがもらっていいのか!?」

「勿論だよ! だって前に約束してたじゃない」

 数日前の席替えのとき、後ろの席では黒板が見えないと嘆く愛音のために、詞幸はクッションを持ってくると宣言していたのだ。

「愛音さん猫好きでしょ?」

 弁当箱やスマホケースなど、愛音は猫があしらわれたものを多く使っている。それを知りながらあえて確認せず、詞幸はサプライズ効果を狙ったのだ。

「おう! 猫大好きだ!」

「良かったわね愛音。ほら、ちゃんとお礼言わないと」

 季詠(きよみ)の慈愛に満ちた微笑みに促され、愛音は瞳をキラキラ輝かせたまま、

「ありがとなっ、ふーみん! ありがたく使わせてもらうぞ! ――あぁー可愛いなー」

 白猫の顔をぎゅぅっと抱いて自らの顔をうずめた。

(んほぁぁぁぁぁぁ~~! 可愛いのはキミの方だよぉぉぉ~~!)

 その破壊力に、詞幸の顔は骨まで柔らかくなってしまったかのように蕩けた。

「よし、じゃあ早速使ってみるか。ちょっと可哀想だけどお尻の下に入れて……おい、ふーみんも席に着いてみてくれないか」

 このクッションはそもそも、詞幸が邪魔で見づらい黒板を見やすくするために用意したものだ。授業と同じ状況にして確認しなければならない。詞幸は背中を向けて自席に着いた。

「どう? ちゃんと見える?」

「うーむ。残念だけどまだよく見えないな……」

 しょんぼりする愛音だったが、詞幸はすかさず用意してあった言葉を口にした。

「こんなこともあろうかと……ほら、まだクッションはあるよ!」

 机の下から取り出したのは、いま愛音が試しているものと同じデザインで色違いのクッションだった。

「おおっ、今度は黒猫か! なんて用意のいい奴なんだ。じゃあこれを重ねて………………うーーん、まだ駄目かー……」

「安心して。まだ…………ほら、こんなにあるんだから!」

 机の下から大きなビニール袋を引っ張り出す。両手でも抱えきれないほどのそれから、詞幸は次々にクッションを取り出した。

「いくつ持ってきたの……」

 愛音の机の上に置き、載りきらない分は呆れている季詠に持たせる。

 大きさもデザインも異なるクッションだが、そのすべてが猫をモチーフにしたものだ。

 これぞ、詞幸がネット通販やフリマアプリを駆使して収集した、愛音への想いの強さの表れである。

「すげーすげーッ! これは壮観だな!」

 興奮を隠せない愛音と「いくらかかったのかな……」と呟く季詠とともに、それらの猫たちを重ねていく。

「立ってる私とほとんど目線変わらないわね……」

 (うずたか)く積まれたクッションの塔の上に鎮座する愛音を、詞幸はどこか誇らしい気持ちで見つめた。

「今度はちゃんと見えるでしょ?」

「おぉー流石によく見えるな。でもな、これ――」

 愛音が体をぐらつかせながら言い放った。

「机と離れすぎてて字が書けない!」

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