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第258話 文化祭1日目⑯ 誤魔化す理由

「そんじゃまたね~」

 詩乃(しの)が友人である少女らに手を振って背中を向ける。詞幸(ふみゆき)もそれに合わせるように軽く会釈して踵を返した。

 彼女らから遠ざかる詩乃の足は速かった。

 一刻も早く好奇の視線から逃れたかったのだろう。

「ふぃ~っ、メッチャ焦った~っ」

 人混みに紛れたところでようやく息を吐き、彼女は額の汗を拭った。

「あのコらの目、完全に疑ってる感じだったけど上手く誤魔化せたかなぁ?」

「どうだろう。やたら『ウチらはただの部活仲間だから』とか『たまたま自由時間が一緒になっただけ』って強調したのが逆に怪しいかも」

 占いの館から出たところを先の友人たちに見咎められ、その説明として詩乃が放った言葉だ。

「俺とカップルだって疑われたくないのはわかるけど、あれのせいで詩乃さんがからかわれたりしたら本末転倒だよね」

 彼女は、詞幸を彼氏だと思われたくないから学校では馴れ馴れしく名前で呼ぶな、と発言したことがある。悲しいことだが、詩乃は彼を恥部のように扱っているのである。

 ところが、

「はぁ? 違う違う、ウチはアンタのために言い訳したの!」

 詩乃は呆れと怒りを混ぜ合わせたような顔になった。

「え? 俺といるのが恥ずかしいからじゃないの?」

「そ、それもちょっとはあるけど! でも、みーさんに釣られて暴走しちゃった時点でウチはもう周りにバレる覚悟決めてるし。みんなに見られちゃうから本当は文化祭デートなんてする予定なかったけど、だからって抜け駆けされるのは絶対ヤだったから」

 恥じらいを誤魔化すように、その口調はどこか拗ねているようであった。

「そうじゃなくて! アンタ自分がちょっと噂になってるのわかってる? 午前中、姫がアンタと楽しそうにデートしてた――って1年の間で広まってんだかんね?」

「姫って――もしかして御言(みこと)さんのこと?」

「ほかに誰がいんのよ」

「確かに御言さんの気品とか美しさは姫っぽいところがあるけど、そんな風に呼ばれてるんだ」

 初耳だよ、と詞幸が言うと、デート中にほかの女の子を褒めるな、と詩乃は脇腹を小突いた。

「ウチとききっぺは同性からのやっかみもあって男子人気に特化してるけど、みーさんは男女関係なく人気あるからねぇ。現実離れしてる感って言うの? お人形みたいに綺麗で、住む世界が違くて、自分とはなにもかもが違うから、女の子は嫉妬するんじゃなくて憧れちゃうわけよ。『わぁ~絵本に出てくるお姫様みた~い』ってね」

(あそこまで性に興味津々なお姫様が出てくる絵本は子供に見せられないけどね)

「そんな、なんかちょっと近寄りがたいってゆーか、自分なんかが近づいちゃいけない――ってくらいに憧れてる姫の隣にさぁ、なんかモブキャラみたいなのが引っ付いてたら噂になるっしょ」

「…………認めたくはないけど、まあ確かに、釣り合ってはないと思う……」

「でしょ? なんであんな奴が~~~って思ってる連中だってきっといると思うし、そんなアンタがさらにウチと仲よくデートしてるなんて知られたらもう完全に炎上案件だから。わかる? ウチはアンタが二股男だってイジメられないようにただの友達って体にしてあげたワケ。そうすればアンタとみーさんのデートも『あぁ、話術部は仲がいいから一緒に回ってただけで別にデートじゃないんだぁ』って思ってくれるかもだし」

 得意げに自身の気遣いを語る彼女に、詞幸は感嘆の声を漏らした。

「ほあー、さすが詩乃さん。そこまで考えてくれてたんだね。いやあ、周りからどういう風に思われてるんだろうとは思ってたけど、俺なんかじゃそこまで考えが至らなかったよ。助かります」

「ふふん、恋愛がらみの経験は豊富だかんね。経験不足のみーさんじゃ脇目も振らず突っ走るだけでこんな細やかな気遣いはできないっしょ。恋愛ってのは自分が幸せなだけじゃダメなんだから」

 と、彼女が胸を張ったところで背後から声がかかった。

「あっ、詩乃じゃ~ん」

「やっほ~」

 派手めな女子の二人組である。詩乃と同じクラスTシャツを着ていることからクラスメイトとわかった。

 二人共、面白いものを見つけた、と言わんばかりの表情をしている。

「なになに、その子詩乃のカレシ? デート? デートなん?」

「遂にあの詩乃も身を固める気になったかぁ~。うへへ、ちょっと紹介してよ~」

 詰め寄られた詩乃は顔を真っ赤にして叫ぶのだった。

「は、はァ!? なに言ってんの!? バカじゃん!? こんな冴えないのがウチの彼氏なワケないじゃん!! そんなこと2億%あり得ないっての!! 変なこと言わないで!!」

(あっ、やっぱりこれ俺といるのが恥ずかしいだけだ)

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