第257話 文化祭1日目⑮ 占いのヤバさ
二股男を占いたくない、という女占い師は、詩乃が「あ~、ウチらもさっきのコも了解してることなんで別に気にしなくていいですよぉ」と言うと、渋々ではあるが占ってくれることになった。
「それで、なにを占いますか?」
「う~ん、どうしよっかなぁ~」
詩乃はニヤニヤした笑みを詞幸に向ける。
「折角よくあたるっていうんだから面白いこと聞かないとねぇ。詞幸が恥ずかしさで死んじゃいそうなくらいのヤツ。いつになったら童貞を卒業できるのか――とか」
「ふぁっ!? 確かに恥ずかしさで死にそうだけど……普通に二人の相性でいいんじゃない?」
藪をつついて蛇を出したくない彼は慎重だ。『誰との行為で』というところにまで話が及んでは危ない。
「え~っ、そんなんじゃつまんなくない? あ、でも盛り上がることはあとに取っておいた方がいっか。じゃ~あ~――ウチら長続きします?」
(そもそも付き合ってないんだよなあ……)
とは言えなかった。
「出ました」
「早っ!! もう占ったんですかぁ!?」
予め答えを用意していたようなスピードだ。なにしろ机の上の占い道具に触れてすらいない。
「午後に来るお客さんからなにを占いたいと言われるか、暇だった昼休憩のとき事前に自分自身を占っていましたからね。入ってきた瞬間から人相占いを始めていました。内容を質問したのはあくまで便宜上のこと、占いの答え合わせでしかないのです」
「へぇ~、すっご! マジでガチの人だ! で、結果は?」
身を乗り出して聞いた。軽いノリで聞いた風だったのにその表情は真剣だ。
「別れますね。大喧嘩のあとで」
「えぇっ!?」
驚きと共に悲壮感を滲ませた詩乃を余所に女生徒は淡々と続けた。
「ご安心ください。彼女さんから振るんですが、すぐにあなたは泣きながら復縁を求めてまた付き合い始めます」
「ほっ、よかったぁ――ってよくないよくない! ウチめっちゃメンドい女じゃん! ウソだぁ! ウチってもっとサバサバした性格じゃないの!?」
「未練タラタラ、というか独占欲が強いですね。別れたあと彼がほかの女性と仲よくしているところを目撃して嫉妬、自分の中に恋心が残っていることを自覚し、勢いで別れたことを後悔して復縁、というパターンを3回繰り返します」
「地雷女すぎるんだけど!」
「3回目の復縁のあと妊娠、妊娠中に別れを切り出すのが2回、出産してようやっと落ち着きます」
「妊娠してからも別れようとするとかマジなんなん未来のウチ! 最低じゃん! ――って待って。え? ウチらの間に赤ちゃんできるんですか?」
「はい、3人ですね」
「ヤッバ、メッチャ産むじゃん! えへへ、詞幸のスケベ~。ナヨナヨ系のクセにヤることはちゃっかりヤるんじゃ~ん」
ふやけた顔で詩乃は詞幸の肩をバシバシと叩く。
「さっきの彼女は9人でしたけどね」
「余計な一言!」
この無神経な発言に、荒れるようなことを口走らないよう黙っていた詞幸もツッコまざるをえなかった。
「はぁ!? なにそれ! アンタ、ウチのことももっと愛しなさいよ!」
「いまの俺にそんなこと言われても!」
詞幸の肩をバシンッバシンッと叩く。
危惧していたことが起きてしまった。こうなりたくないから先ほど必死に懇願したというのに。
「いやそれ以前に! 子供ができるってことはアンタはウチと結婚するんじゃないの!? なんでみーさんとの間にも子供ができるワケ!?」
「詩乃さん落ち着いて! あくまでも占いは占い、可能性の話をしてるだけなんだしさ。詩乃さんと3人の子供を育てる未来もあるけど、御言さんと9人の子供を育てる可能性だってある。そういう話ですよね?」
助けを求めるように詞幸は占い師の方を向いた。しかし彼女は首を横に振る。
「確かに仰るとおり占いとは可能性の一つを示すものです。が、今回の場合、二つの未来は同時に存在しているのです」
「へ?」
「つまり、あなたは先ほどの彼女との間に9人の子をもうけながら、こちらの彼女との間にも3人の子をもうけるということです」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 未来の俺どんだけ無節操なのおおおぉぉぉぉぉ!?」
「それはこっちの台詞じゃ~~~~~~~~~~!!」
激昂する詩乃にかけられたヘッドロックに彼の意識は遠くなっていき、恥ずかしさではなく物理的に死にそうになるのだった。