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第256話 文化祭1日目⑭ ガチの人

「ねぇ詞幸(ふみゆき)。一つお願いなんだけど……」

「なに?」

 歩き出そうとしていた詞幸が袖を引かれて振り向くと、詩乃(しの)は神妙な顔をしていた。

「午前中みーさんといろいろ回ったんだろうけど、『あ、ここさっき来た』とか言わないでね……? 文化祭なんて学校の敷地内でしかやんないんだから、行くところが被ることだってあるじゃん? そーゆーの気にしながらだと行けるところなくなっちゃうし、楽しめなくなっちゃうから。だから一度来たトコでも新鮮なリアクションとって……?」

 文化祭の1日目も終盤である。飲食系の店は在庫がなくなっていることも考えられるため、行ける場所はさらに限られるだろう。

 部活やクラスの当番もあるという状況的に、詩乃と御言と一緒に3人で回るということが叶わなかった以上、どちらかが後手に回るのは仕方がないこととはいえ、それで楽しめなくなってしまうのではあまりにも申し訳ない。

 だから詞幸はそんな不安を吹き飛ばそうと大きく笑った。

「はははっ、大丈夫だよ。こういうのはなにをしたか、じゃなくて、誰といたか、の方が大事だからね。詩乃さんと一緒なら、御言さんのときとは違った楽しみ方ができるよ」

「おっ、詞幸のクセにいっちょ前に言うようになったじゃ~ん」

 このこの、と脇腹を肘でつつかれる。その反応を見るに憂いは解消できたようだ。

「じゃあ最初に行きたいトコあるから早くそこ行こ?」

 と急かすように袖を引く詩乃と連れ立って階段を昇り廊下を移動する。

「ほら、あそこ。メッチャ当たるって評判なんだって!」

 と、詩乃が指差す方を見て詞幸は一瞬動きを止めた。

(げっ。よりによってあそこかああぁぁぁ…………!)

 暗幕が張られ、光を拒むように存在するその教室は、外壁が魔法陣や蝙蝠の切り絵で装飾されていた。

《占いの館》――いきなりドンピジャで御言と行ったところであった。

「なんかねぇ、占い師の一人がガチの人らしくって、当たり過ぎちゃうから普段は占いを封印してるんだって~。でも今日と明日は星の巡り的にむしろ占いしないとヤバイから――とかなんとかで特別に占ってくれるらしいの。先客がいなければ受付でその人指名してもオッケーなんだってさ」

「へえ……そうなんだ。楽しみだね」

 詩乃のお願いのため、彼は胸に湧いた焦りを表に出さぬよう笑顔を張り付ける。

(落ち着け落ち着け! まださっきの人がその『ガチの人』と決まったわけじゃないんだから!)

 そんな彼の胸中のざわつきに気づかず、詩乃は受付で件の『ガチの人』を指名できて「ヤバッ、ちょっと緊張してきたかも」とウキウキの様子だ。

 薄暗い室内を案内され、例によって暗幕で区切られたブースの一つに入っていく。

(どうかあの人じゃありませんように!)

 詩乃とは別種の緊張が詞幸を襲う。

 すると――

「え? またあなたですか?」

 黒いローブと三角帽子の女生徒が嘆息していた。

「今度は違う彼女を連れてるんですね」

「占い師さんすいません! そういうのはノーリアクションでお願いします!」

 彼女に駆け寄った詞幸は机に額を擦りつけて懇願した。

 自分がどんなに気をつけても外からバラされるのではどうしようもないが、いくらなんでもこんなバレ方は最悪だ。

「顧客の個人情報は普通漏らさないものでしょう!? さっきのことには触れないでください!」

「お断りします。占い師としての道理よりも人としての道義を優先させていただきましょう。わたしもこれでも女、両方の彼女さんに同情してしまいますので、二股するような男性のお願いを聞く気にはなれません」

「違うんです! これは二股じゃなくって深ぁーい事情があるんですよお! 聞いてくださいって!」

「聞く価値ありません」

 必死に頭を下げるも彼女は強情だった。三角帽子の下から覗く目には軽蔑の色が宿っている。

「ふ~ん、みーさんとも来たんだぁ……」

 と、背後の声に振り返ると詩乃が申し訳なさそうにしていた。

 毛先を弄びながらはにかむ。

「ウチのためだからってそんな必死に隠そうとしなくてもいーのに。えへへ、でも嬉しいっ。アンタのそーゆートコやっぱ好き❤」

「はは、はははは…………」

 好意的に解釈されてしまい、後ろめたさいっぱいの詞幸は力なく笑うしかなかった。

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