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第255話 文化祭1日目⑬ 詩乃の功罪

 次なるデートの待ち合わせ場所として選んだのは玄関近くのスペースだ。ここからなら特別教室棟にも外にも行きやすい。

「遅れちゃってごめ~ん」

 詩乃(しの)は小走りでやって来た。

 お化け屋敷の当番を終えてクラスTシャツに着替えた彼女に軽く手を挙げる。

「ううん、俺もついさっき当番が終わったところだから」

 そう答える彼は着替えるのが面倒で執事姿のままだ。

「あれ? 詩乃さんちょっとお疲れ?」

 隣に並んだ彼女の顔を覗き込む。

 ギャル感が前面に押し出され勝気な性格と相まって攻撃的に見えるその顔から、どことなく険が取れて柔和に見える、と詞幸(ふみゆき)は思ったのだ。失礼な感想だが。

 彼が指摘すると、詩乃は曖昧に笑って髪を撫でつけた。

「あ~……わかる? まぁ疲れてるってか精神的ダメージってカンジなんだけど。ちょっとヘコんでるってゆーか……」

「え、ヘコんでるって――どうしたの? 大丈夫? ミイラ役が不評だったってことはないよね。あの衣裳似合ってたし。それともブロマイドが予想より売れなかったとか?」

 自己評価の高い詩乃のこと、目標を高く設定しているということは十分あり得る。

「逆逆、メッチャ売れてる! もちクラスで1番の売り上げだし、売り子担当のコから聞いた話じゃ、話術部とかいう変テコな部活の男子部員もやらしい顔して買ってってくれたらしーし~」

「顧客の個人情報は守ってほしいな……」

 ニマニマと笑う詩乃から目を背けた。『やらしい顔して』などと暴露されては『友達だから買ってあげた』という言い訳が立たない。

「こほん、話を戻すけど――じゃあどんなことで落ち込んでるのさ」

「それなんだけどさ、」

 詩乃は勢い込んで話し出した。どうやら聞いてほしいらしい。

「ほらウチ可愛いくてスタイルいいからお客さんの評判がいいんだよね。クラスメイトからちょっと延長して働いてくれって頼まれちゃうくらいでさぁ。んで、今回はその可愛さが仇になったの」

 誇るようなポーズは、『アンタも可愛いって思うでしょ?』と言わんばかりだ。

 その視線に頷いて先を促す。

「一般客のカップルだったんだけどね、たぶん高校生の。ウチは待機位置からそのカップルが来るのを確認して、男の子の方に襲い掛かったワケ。その方がウケがいーから。そしたらその男の子の目がウチに釘付けになっちゃって興奮しまくりの鼻の下伸ばしまくりでさぁ」

「ああ~~」

 詞幸は納得の声を漏らした。その男子はあのほとんどビキニ姿の詩乃を間近で見たのだ。僅かな薄布だけで隠された柔肌は刺激が強かろう。

「まぁそういう男の子は多いし、ってかほとんどはウチに見惚れちゃうんだけどね。男の子だけのグループなら『いまの子すげぇエロかったなー』とか言ってワイワイ行くし、カップルならフツーは男の子の方は見て見ぬふりで行くんだけど。ほかの女の子に目を奪われてたとかバレたらヤバいから。でもそんときの男の子は先に進んでもチラチラ振り返ってきて、そしたらもう彼女が大激怒でさぁ、いきなり怒鳴るワケ。『いまあの子のこと見てたでしょ!』って」

「うわあ、修羅場だ……」

「もうそっから大喧嘩。外でやりゃあいいのにお化け屋敷の中でやるもんだから次のお客も入れらんないし。なんかウチが元凶っぽいから仲裁もできないし。で、見るに見かねてほかのお化け役のクラスの子が止めに入ったんだけど、運の悪いことにそのやってきた幽霊の女の子がメッチャ胸の谷間出しててさぁ、そっちもガン見しちゃって」

「火に油注いじゃったんだ……」

「金切声上げながら腕振り回して彼氏ボコボコ殴ってて、危うくセット壊されそうになったから慌ててその場にいるスタッフ全員呼んできて総出でなんとか追い出したの。マジで疲れたしウチのせいで別れるとかなったらホント最悪なんだけど」

「それは大変だったね。お疲れさま」

 労いの言葉をかけると、彼女は髪を掻き上げてこう言うのだった。

「はぁ…………可愛いってのは罪、自分の罪深さにヘコむわぁ……」

 その横顔は疲れなど微塵も感じさせず自慢げであったという。

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