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第254話 文化祭1日目⑫ 女の友情

 詞幸(ふみゆき)たちがクラスの当番をしているころ、話術部の当番は御言(みこと)季詠(きよみ)が担当していた。

 御言は相変わらずのメイド姿。クラスの当番を終えた季詠はクラスTシャツを着用している。

「――ということがありまして、とっても楽しかったのです。詞幸くんのことをもっと好きになってしまいました」

「ふふっ、よかったね。いい思い出になって」

 御言は詞幸との文化祭デートでの出来事を――つまるところ惚気話を――季詠に語っていた。

 その幸せそうな笑顔を季詠は眩しそうに見つめる。

「でもまさか、御言と詩乃(しの)月見里(やまなし)くんのことを好きになるなんてねぇ」

「あら、意外ですか?」

「うん、意外。だって月見里くんが愛音のことを好きだって早いうちに気づいてたでしょ?」

「はい、気づいていました。彼が初めて部室にやって来たときから。でもそれは些細なことです。彼がいま誰のことを好きだろうと、最終的にこちらを振り向いてくれればいいのですから」

「強気な発言だね。ふふっ、御言らしい」

「そういう季詠ちゃんはどうなのです?」

「え?」

「季詠ちゃんも詞幸くんのことを好きではないのですか?」

 季詠の目が驚きに見開かれる。しかしほんの一瞬垣間見えた感情は、風に攫われるように笑い飛ばされた。

「あははっ、そんなことないよ~。もう、御言ったら考えが飛躍しすぎ~」

「誤魔化さなくともよいではないですか。誰に聞かれているわけでもないのです」

 それは当事者たちがいないというのもあったし、客足が途絶えているということでもあった。

「詞幸くんには黙っています。もちろん、愛音(あいね)ちゃんにも」

「…………詩乃には話すってこと?」

「隠し立てする必要もないでしょう。だって、詩乃ちゃんもきっと気づいていますから」

「………………いつから?」

 季詠は静かに御言の目を見つめて尋ねた。その顔に色はない。

「わたくしが気づいたのはつい最近です。詩乃ちゃんが詞幸くんのことを好きなら、もしかして季詠ちゃんも、と。わたくし、自分の気持ちにすら気づけなかったほどのニブチンなので。詞幸くんは態度がわかりやすいのですぐ気づけたのですけれど、詩乃ちゃんは色んな男の子とも同じように仲よくしていたので気づけませんでしたし、季詠ちゃんも誰にでも優しいですから。うふふっ、人の心とはわからないものですね」

 自嘲気味に話すのは相手の警戒心を解くためだ。

「ついこの前やっと恋というものを知ったばかりのわたくしが、横から口を挟むのは差し出がましいとは思います。ですが、自分を押し殺すことの無意味さ、虚しさをわたくしは知っているのです。だから、季詠ちゃんも告白するべきだと、わたくしは思います」

「………………」

 季詠は黙って聞いていたが、やがて観念したかのように大きく息をついた。

「御言はすごいよね。詩乃もだけど。自分の気持ちをストレートにぶつけられるなんて」

「いいえ、すごくなんてありませんよ。ただ、恋に浮かれてしまっているだけです。大人になったときに消したくなるような青臭い思い出にならないといいのですが」

「へぇ、それこそ意外。みんなの前で好きって言うくらいだから盲目なのかと思ったら、そういうところは冷静なんだね」

「はい、恋に浮かれてはいますけれど、酔ってはいません。あくまで素面です」

「そっか。私にはできないなぁ…………怖いもの」

 と、彼女は上を見上げた。突き抜けるような青空を。

「別に珍しくもない、ありきたりな話だよ。断られたらどうしよう、いまの関係が壊れるのが嫌だ、もっと仲よくなってからにしよう――特別な悩みなんかじゃ全然ない。全国の高校生が、男子女子問わず抱えるような普通の悩み。だから解決法なんてわかりきってるんだ。気持ちを押し殺してもずっと後悔が残るから、怖がらずに、自分の気持ちに素直になるしかないって。でもね、」

 やっぱり怖いの、と消え入りそうな声で季詠は言った。

「私はみんなからよく優等生だって言われるけど、全然そんなことないの。臆病で、意地汚くて、狡くて、なにもできない。やろうともしないくせに、私にはできないことができて羨ましいな、って嫉妬してる。御言にも詩乃にも……………………もちろん、愛音にも」

 それは、初めて口にされた、優等生と呼ばれる彼女の身勝手な感情だった。

 その感情を受け止め、御言は優しく微笑む。

「嫉妬するということは、同じようにしたい、なりたいということですよね? でしたら、やはり告白するできでしょう。でも、急ぐ必要はありません。自分のペースで頑張りましょう」

「御言…………御言はなんで、私の背中を押してくれるの? 恋敵のはずなのに…………」

「うふふっ、自分のためですよ。わたくしも詞幸くんの1番になりたいと思っていますけれど、複数の女の子で彼をイジメたいとも思っているのです。漢字だと女男女の『嫐る』ですね」

 恍惚とした御言の言葉が理解できないのか、季詠は何度も頭を振っている。

「…………あれ? これってもっと真面目な話じゃなかったの?」

「はて、至って真面目な、わたくしが描く幸せな未来のお話ですが。一夫多妻制上等、愛人だってウェルカム、とにかく彼をハーレム状態で性的にイジメて骨抜きにしたいのです。うふふっ、きっとだらしなくて可愛いお顔を見せてくれるはずです❤」

「純粋な女の友情を期待した私が馬鹿だった……!」

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