第251話 文化祭1日目⑨ 物理ダメージ無効
「おっ、出たなモテ男!」
名残惜しそうな御言と別れ自分のクラスに戻った詞幸をニマニマ笑いが迎えた。
「にひひっ、ミミとのデートはどうだった?」
と質問を投げた愛音だったが、すぐさま「いや、言わなくていい」と付け足した。
「なんてったってミミはこの学校で1番のお嬢様。おまけに学業優秀、容姿端麗、才色兼備、巨乳万歳、という完璧美少女だ。家柄や将来性を考えると、悔しいがアタシの嫁であるキョミですら総合スペックでは敵わないだろう。そんな女からベタ惚れされて悪い気なんてするわけないよなー。どれだけ楽しかったのか、そのアホみたいなニヤケ面を見れば聞かなくてもわかる」
詞幸はなにも言っていないのに腕を組んでウンウン頷く愛音。
確かに彼女の言うとおり、詞幸は御言との文化祭デートを大いに楽しんでいたし、そのせいで顔が緩んでいたことも否定できない。
しかし彼がだらしない顔を晒しているのにはほかにも理由があるのだ。
それは、
(愛音さんの猫耳魔法少女姿可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! やっばああああぁぁぁぁぁぁ!!)
ピンクのフリフリスカートに猫耳カチューシャに猫尻尾、腹部を大胆にも露にしたコスプレに大興奮だったからである。
「あ、愛音さん、その格好どうしたの? 自分で選んだの?」
詞幸たちのクラス1年B組の出し物はコスプレ喫茶だ。コスプレをしたウェイトレスやウェイターが給仕をするというもので、当初はメイド喫茶が企画されたのだが、3年生のクラスと被ったために弱い立場の1年生は内容を変更せざるを得なかったのである。
「あー、これか?」
愛音はどこか嫌そうな顔で猫耳に触れた。
「アタシの趣味じゃないぞ。クラスの連中に押し付けられたんだ。アタシがロリロリだからこういうのが似合うだろうってなー。まったく、人を着せ替え人形みたいにして遊びやがって」
彼女は吐き捨てるが、詞幸は心の中で「グッジョブ!!」とクラスメイトたちのセンスに喝采を上げた。それほどまでにこのコスプレと愛音の親和性は素晴らしいのだ。
「接客のときはこんな感じでポーズまでやることになってるんだ、ニャン♪」
「ぐぼあっ!」
激しく萌えてしまった詞幸は鼻や口からなにかが迸らないように両手で顔を覆った。
(あああああ!! そんなニャンニャンポーズで接客してもらえるなんてお客さんが羨ましいいいいい!! 妬ましいいいいいい!!)
ところが愛音はそんな彼の反応を勘違いしたらしい。
「おっ、お前! いまアタシを見て笑ったな!?」
「違うよ!」
怒りで肩を震わせる愛音に弁明するが、苦しそうに口元を覆う様子は笑いを堪えているように見えなくもない。
「これは…………愛音さんがあまりにも可愛いから!」
「いまさらそんな嘘で取り繕っても遅いぞ! 喰らえ、必殺猫パンチだ! ニャン! ニャン! ニャーっ!」
「うぐっ❤ げふっ❤ がはあっ❤」
魔法少女らしからぬ腹部への強烈な物理攻撃は、彼の肉体ではなくハートにクリティカルヒットしたのだった。