第249話 文化祭1日目⑦ 新時代のお化け屋敷
「気になったんだけどさあ……」
詞幸は首をさすりながら続けた。
「詩乃さんのミイラ、すっごく過激じゃない?」
「えっ、マジ? ウチエロいっ?」
詩乃は嬉しそうにスラリとした手足を持ち上げてポーズを取る。
先ほどまでは窒息の危機に瀕していたため余裕がなく気づかなかったが、よく見れば彼女は水着姿に包帯をグルグルと巻きつけただけの格好で露出度が高い。
「うん。ハッキリ言ってエロい」
「えへへ~。詞幸にそう言ってもらえるとマジで嬉しいわ」
ゆるふわウェーブの毛先を弄んで体を揺らしている。
「目のやり場に困るっていうか、真っ暗な中だと白い包帯と白い肌がより引き立つっていうか」
「煽情的ですよね。暗がりのせいで水着を着ているとわかりづらく、本当に包帯だけで隠しているのかと思ってしまいます。露出プレイの参考にできそうなところも素晴らしいですね」
御言も舌を巻くレベルのコスプレのようだ。若干評価基準がおかしいが。
「でも、なんでそんな格好なの? ミイラの格好なら普通に服の上から包帯巻くだけでも十分様になるよね。高校の文化祭でするにはやりすぎな感じがするけど……」
「あ~、それはほら、文化祭のお化け屋敷ってどうしてもショボくなっちゃうじゃん? 当り前なんだけど遊園地の本格的なのに比べたら規模は限られてるし、装飾品もメイク道具も少ない予算じゃあんまり派手にできないし、そもそもウチらは脅かすのも素人だし」
「それは仕方ないことではないですか? 高校生が学校行事として行うものなのですから。お客さんたちもそれをわかってうえで来てくれるのでしょうし」
「いやだからそういう現実的なのが見えちゃうから、怖がらせようとしたってうまくいかないって話なワケ。ほらやっぱお化けじゃなくて人間じゃんってなっちゃうの。そういうのってわかりきっててもさぁ、な~んか白けちゃうんだよねぇ。ウチ、中学のときから合コンで知り合った高校生の男の子の文化祭によく行ってたから、前々からそう思ってたの」
確かに、お化けのなにが怖いのかと言えば、実体がなく抗えない存在であるというほかに、その神出鬼没な不可解さが挙げられるであろう。人間だけでなく動物は得体の知れないものに恐怖を覚えるものだ。
それなのに《高校生が頑張って手作りした》などといったほのぼのとした属性がついてしまえば怖さは半減どころで済まない。
「で、そんな話をクラスでしたら、じゃあ怖さ以外の付加価値を付けようって話になったの。じゃあ可愛くてエロいウチらを目当てに来てもらうのもありかなって話の流れになって、『セクシーホラー』をコンセプトにしたこのお化け屋敷ができたってわけ。どう? 斬新っしょ」
「『セクシーホラー』! そんなコンセプトのお化け屋敷なんて初めてだよ!」
耳慣れない言葉に詞幸は新鮮な驚きを感じた。
「って、あれ? このお化け屋敷のコンセプトってことは、もしかしてこういう露出が多い格好してるのって詩乃さんだけじゃないの?」
「そゆこと。この先にはウチに負けず劣らずのエロかわ妖怪がまだまだ控えてるし。ほかにも半裸のイケメン落ち武者とかムキムキ吸血鬼とかもいるから、女客もバッチリ落とせるってワケ!」
「落とせるって…………落としてどうするのさ。リピーターにでもなってもらうの?」
「違う違う。出口のとこで売ってるブロマイドを買ってもらうの!」
「そんないかがわしい商売してるお化け屋敷初めてだよ!」
そう言った詞幸だったが、彼は御言に白い目で見られつつも詩乃のブロマイドを購入したのだった。