第247話 文化祭1日目⑤ 奥の手
「さぁさ詞幸くん、ジャンジャンバリバリいろんなクラスを回りましょう!」
「ははっ、張り切ってるねえ」
店番を交代した二人は、予定どおりそのまま一緒に自由時間を楽しむ流れに移行していた。
普段生活している校舎内は、その装いを変えて今や別世界だ。
教室も廊下も至る所が飾り付けられ、すれ違う人はクラスTシャツを着ていたりコスプレをしていたりで、時折小・中学生や大人たちが入り混じる。いつもの場所でも見える景色がまるで違っていた。
日常の中の非日常を肌で感じ、御言も浮き足立っている様子だ。
「ほらほら、早く行きますよっ。ゆっくりしていると1時間なんてあっという間に過ぎてしましますから。わたくしはできるだけ多くのクラスを巡って、詞幸くんとのラブラブ文化祭デートを楽しみたいのですっ」
跳びはねるように急かす御言のはしゃぎように思わず笑みがこぼれてしまう。
(お祭り騒ぎに浮かれるところも、躊躇わないで好意をぶつけてくるところも、なんだか小さな子供みたいだなあ。もしかしたら愛音さんよりも子供っぽいかも)
普段纏っている大人びた雰囲気も御言の魅力だが、それとは対照的な一面もとても愛らしく感じられる。
そんな彼女がこのまま暴走してしまわないよう、詞幸は一つ提案をした。
「全部を回るのは無理だろうから、お互いに行きたいところがあればまずはそれを優先しようよ。御言さんはどこか行きたいところある?」
「あら、わたくしの希望からでいいのですか?」
「うん。レディーファーストって気取るつもりはないけど、御言さんが楽しんでくれると俺も嬉しいし」
「うふふっ、十分気取った台詞ですよ? ではお言葉に甘えて――」
御言はパンフレットを広げてその紙面に指を走らせた。
「まずこの3年生の教室に行きましょうっ。射的で遊べるそうなので夏祭りのリベンジマッチですっ。今度は負けませんからねっ。その隣のクラスでは九龍球というオシャティー映え映えスイーツを買い、ほっぺたをくっつけてツーショットを撮りましょうっ。その次ですが、小腹もすいてくる時間帯ですし、どこかで食べ物を買いたいですねっ。お食事系はこのあたりに固まっているので二人で選びましょう。それからそれから――」
次々と気になるスポットを示していく。
「ちょっ、御言さんっ? さすがに1時間でそんなには回れないよっ」
「やはりそうですか…………仕方ありませんね」
御言はしょんぼりと肩を落とす。が、次の瞬間には背筋をしゃんと伸ばしてこんなことを言ってのけた。
「この手は使いたくありませんでしたがやむをえません! このあとの詞幸くんのクラス当番を空けてもらえるよう、クラスメイトさんたちを買収しましょう! そうすればゆっくりいろんなところを回れます! マネーイズパワーです!」
「学校の中でそんなやたらと分厚い財布を出さないで! 駄目だよそんなこと!」
「あら? でも漫画だとお金持ちキャラはこういう我が儘を言うのが定番ですよね? きっと皆さんも理解してくださるかと」
「漫画のお約束展開は現実では許されないから!」