第243話 文化祭1日目① 参考資料
開会式が終わりあれこれ準備を進めていると、もう間もなく文化祭開始時刻の10時である。
詞幸と御言は共に中庭に来ていた。
長机一つに椅子を二つ据えただけの簡素な出店で、並んで座って開会の時刻を待っている。
「もうそろそろ始まりますねっ。楽しみですっ」
御言の声は弾んでいて本当に楽しみにしていることが伝わってきた。とても機嫌がよさそうで詞幸はそっと胸を撫で下ろす。
一時部室を狂乱状態に陥れた、御言と詩乃の二人で詞幸を取り合うという大騒動は、最終的にどちらを優遇するということもなく、二人きりの機会を等分するということで(表面上は)平和的に決着した。
文化祭の開催時間は両日共に6時間。1時間を一コマとして二人ずつの当番を6人で行うとなれば全4回の当番が回ってくるのだが、その内の一コマずつを御言、詩乃と行うことになったのだ。
「あぁ、胸が高鳴りますっ。中学校のときの文化祭とは規模も雰囲気もまったく異なるのでワクワクが止まりません!」
「そうだね……俺もドキドキしてるよ」
さらに、クラスの当番を除いた詞幸の自由時間は計4時間なのだが、同様にこの中の1時間ずつを彼女らとのデートに充てるということも決まっている。
彼のドキドキは、そんな甘酸っぱい時間への期待と、それに伴って発生が予想される事態への不安を内包したものだ。
しかし御言は彼のそんな心の機微など露知らず、いつもの3割増しでニコニコしている。
「お客さんたちはちゃんと来てくれるでしょうか、CDを買ってくれるでしょうか。ちょっぴり心配になってきてしまいました」
言葉とは裏腹に、大好きな詞幸とともにある時間が幸せでたまらないといった感じだ。
「それよりも、俺は実行委員とか先生たちに発禁処分喰らわないかの方が心配だよ……」
陳列されたCDや傍らのポスタースタンド、机上のPOPを見やる。
そのどれもに作品名がデカデカと激しく主張されていた。
『現役JK(ついでにDK)の○○○❤なASMR集』と。
「…………やっぱタイトルがいかがわしくない?」
言い逃れできるように直接的な表現は避けて代わりに伏字を使っているのだが、❤があることでどうしてもやらしい方面の想像を喚起してしまう。学校の文化祭で出すのだから『現役』なのは当り前なのに、わざわざ書いてあることも拍車をかけていた。
「全体的にピンク色でハートいっぱいなデザインなのもアレな感じが出てるよね…………」
「話術部は女の子が多いのですからそうなってしまうのは必然です。それに、商品名やデザインはわかりやすさだけでなくインパクトも大切だから学校にNOと言われないギリギリを攻めたタイトルにしよう、とみんなで決めたではないですか」
「みんなじゃなくて御言さん一人のゴリ押しだったでしょ……」
詞幸は嘆息した。
「御言さん、お嬢様なのにいったいどこでこんなセンスを身につけてきたのさ」
「え? 詞幸くんのコレクションからですが」
「どうりで見覚えあるいかがわしさなわけだよ!」