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第240話 シスコン兄貴

「もう今週末には文化祭かー」

 詞幸(ふみゆき)愛音(あいね)季詠(きよみ)の3人でとるいつもの昼食。今日も今日とてから揚げを頬張りながら愛音は憂いの表情を見せた。

「まずいな……いや、から揚げは超美味いが、まずいな……」

「なんで? 愛音さん文化祭楽しみじゃないの?」

「いや、楽しみだぞ? キョミのエロボイスを独り占めしたい気もするが、アレが公になって恥ずかしがるキョミを愛でるのも面白そうだしなー」

「ううっ、せっかく忘れてたのに思い出させないでぇ…………」

 季詠は表情を曇らせるが、愛音はその様を見て笑うだけで特に慰めもしなかった。

「アタシがまずいと言ってるのは来たるべき文化祭の軍資金が足りないからなんだよ。夏休みはディズニーに映画に水族館にプールに夏祭り、いろいろ散財したからなー。僅かなお小遣いでやりくりしてる身としてはつらいものがある」

「でも文化祭ってお金かかるのは基本的に食べ物関係だけだよね? それすらないの?」

 それにしたって営利目的ではないためにほとんどが仕入れ値で安いはずだ。

「ないなー。来月のお小遣い前借りしてゲーム買ったばっかだし。ほら、部活休んだ日に」

(やっぱり生理じゃなかったんだ……)

 詞幸は口に出せるはずもない感想を胸中で呟く。

「もう、愛音ったら……家の用事じゃなくてゲームのために部活休んだなんて。しかもそれでお小遣いなくなったなんて、完全に自業自得じゃない」

「まあまあ、季詠さん。欲望に忠実なところが愛音さんのいいところなんだから。よければ俺が愛音さんの分も」

「駄目だよ月見里(やまなし)くんっ、これ以上愛音を甘やかさないで! 計画性と堪え性がないのは普通にこの子の悪い所だから!」

 男気を見せようとしたのだが、言い切る前に教育ママに強く却下されてしまった。

「ぶー、キョミの意地悪。――はーあ、仕方ない。前みたいに兄貴に貢がせてやるかー」

「貢がせてやるって…………すごい言い草だね」

「だって兄貴ってアタシのこと好きすぎるんだよ。キモいくらいに。シスコンってやつ?」

「そんな風に言ったらお義兄(にい)さんが可哀想だよ。可愛い妹のために自分のお小遣いを分けてくれるんでしょ? 優しいお義兄(にい)さんだよ」

「いやウチの兄貴はそういうのじゃないんだって。変態的っていうか。この前なんかアタシの使用済みパンツを千円で買ってくれたし」

「ええッ!? なにそれうら――変だよ、ヤバいって!」

(月見里くんがいまなんて言おうとしたかは考えないでおこう……)

 季詠はクラスメイトを軽蔑しないで済むように思考を放棄した。

「いやー、ぜひ俺に売ってくれって懇願するもんだからあのときはちょっと引いたけどな、別に気にするほどのことでもないだろ。アタシは古くなったパンツが千円になるんだからラッキー、兄貴も愛しの妹のパンツが手に入ってハッピー、WinWinの関係じゃないか」

「いやいや駄目だよ! 警戒した方がいいって! 普通の兄は妹のパンツ欲しがらないよ!」

「でも兄貴って彼女いない歴(イコール)年齢だしなー。外の女が怖いからって変に拗らせて妹萌えに走ってもおかしくないんじゃないか? 妹ヒロインしか出てこないエロゲーもやってたし。裸見せるのはヤだけど隠れて一人でハァハァする分には」

「ちょちょちょ、ちょっといい?」

 猥雑な話に堪えられないのか、季詠がこめかみを押さえながら割り込んだ。

「その件なんだけど、昨日愛音の家に行ったときにお兄さんから相談されたの」

「愛音さんのパンツだけじゃ満足できないって?」

「違います! ――愛音のお兄さんてね、とっても気が弱いタイプの人で、愛音を1度も叱ったことがないんだって。それがこの前、ニュース番組で……ブルセラショップ? っていう――」

 頬に朱が差し、言葉も歯切れが悪くなった。

「中高生の女子から買い取った……使用済みの下着、なんかを売ってるところの特集をやってたらしくて、愛音がそれを見て『こんな簡単にお金が稼げるんならアタシも売ってみようかなー』って言ったんだって」

「えー? そんなこと言ったかなー。スマホいじりながら見てたから覚えてないなー」

 目を逸らす愛音。白々しいにも程がある誤魔化し方だった。

「それでお兄さんは可愛い妹が非行に走らないよう叱ろうとしたんだけど、強く言って嫌われるのが怖くて『そんなところで売るくらいなら俺に売ってくれ』って言ったらしくて……」

「それで愛音さんは快く千円で売った、と」

 詞幸は安堵した。変態な義兄(あに)は存在しなかったのだ。

「そのあとこっそり箪笥に返したらしいんだけどね、愛音がお金欲しさに悪いことするんじゃないか――とか、妹の使用済みパンツを欲しがる気持ち悪い兄だと思われてるんじゃないか――とか、お兄さん相当悩んでたの。高校生がいかがわしいお店に関わるなんてもってのほかだし、冗談だとしても変なこと言ってお兄さんを困らせないようにね?」

「うぐっ………………わかったよ」

 言い含めるように諭され愛音は俯いた。

 しかし、すぐに顔を上げて力強く握り拳を振り上げる。

「よーし、じゃあ次からはパンツ渡さないで正々堂々お小遣いをねだるぞー!」

「「まったくわかってなさそう!」」

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