第239話 愛音がいない部活 後編
そう、あれは5月。体育祭での出来事だった。
俺はそのとき、まだ愛音さんと話したこともなくて、クラスの中にやたら小さな女子がいるなあ、ってくらいにしか思ってなかったんだよね。
練習のときもほとんど男同士でしか話してなかったからってのもあるんだろうけど、正直なところ、あんまり印象に残ってなかったんだ。
ほら、愛音さんってさ、あんまりなにかに頑張るってタイプじゃないじゃない? この部活に入ってるくらいだから、基本的にぐうたらするのが性に合ってるんだよね。
スポーツ系もあんまり好きじゃないっていうか、体格的に絶対不利になるから嫌いだってハッキリ言ってるし。
そんな感じで、体育祭の練習では全然目立ってなかったんだよ。
でも本番では違ったんだ。
綱引きのときにさ、あの小さな身体を思いっきり使って顔を真っ赤にしながら引っ張ってるの。気合も凄くて、大きな声でオーエス、オーエスってさあ。
俺は応援してる側だったんだけど、それがすごい印象に残ったんだよね。で、そこから愛音さんのことを目で追うようになったんだ。
クラス対抗の長縄跳びってあったじゃない? 俺その前の徒競走で足捻っちゃって、急遽回す係になってさ、女子が固まってる方で回してんだよ。当然目の前は愛音さん。真剣な顔で高く高くジャンプする姿がカッコよくて思わず見とれちゃったよ。ポニーテール姿も可愛かったし………………気持ち悪くないよ! ニヤケてるんじゃなくて微笑んでるの! まったく、詩乃さんはすぐ俺のことを悪く言う……。話を戻すよ?
愛音さんは競技に参加してないときも応援に全力で、力の限りの大声を出してた。違う学年の種目でも応援してて、同じフィールドにいなくても一緒に戦ってるっていうのかな、仲間のためにできることは全部やるって、そんな雰囲気だったよ。
極め付きは最後のリレーかなあ。さっきも話したけど、俺あのとき足を痛めてたから走るのやめようかと思ってたんだよね。走れないほど酷くはなかったけど、クラスのみんなに迷惑かけたら悪いし。だから俺、クラスの体育委員に相談したんだ、棄権しようと思ってるって。そしたらそれを聞いてた愛音さんが横から『走れ。お前は走りたいんだろ? だったら走れ。周りの迷惑とかくだらないことは気にすんな。楽しまなきゃ意味ないだろ』って。
熱いよねえ! それ言われた俺はもう身体が震えたよ!
その言葉に周りのみんなも賛成してくれて、結局走ったんだ。俺のせいかはわかんないけどクラスはビリで、でもすっごく楽しかったなあ……。
それがきっかけ。普段の様子からは全然想像つかないよね? でも俺は燃えるように青春を謳歌する愛音さんに心奪われたんだよ。その1日で一気に憧れて、どんどん好きになってった。
だから俺のこの気持ちはプラトニックなんだよ。別に愛音さんのことを性的な目で見て好きになったわけじゃ――え、なに? ………………………………確かに長縄跳びのときにおへそがチラチラ見えてたけど! なにお腹フェチって! 御言さんまで俺を変態扱いして…………プールのとき? ……………………え、そんなに見てたっ? 嘘、俺って知らぬ間にお腹フェチになってたのか……!
ああもうBGMまでかけたのに雰囲気が台無しだよ。俺は感動的な恋の話をしようとしただけなのに…………。
――ついでだから言うけど、愛音さんと体育祭のときの話をちょっとだけしたことがあるんだ。『あのとき愛音さんの応援、すごく気合入ってたよね』って。そしたら『だってキョミだけじゃなくて学校中の巨乳が揺れるんだぞ! そんなの見たら興奮するのは当然だろうが!』って返されたんだ。
……俺はね、揺れる巨乳を見て一時的にテンションが高くなってた愛音さんを好きになったんだよ。
ははっ、はははははははははははっ、はあ――………………………………