第23話 見慣れてるし
――女体に囲まれた青春ヒャッホー!
そう高らかに叫んだ少年を、深い虚のような瞳がじっとりと見つめる。
「…………」
愛音の視線が突き刺さり、全身にべっとりとした冷や汗が浮かぶ。詞幸は突き上げた両腕を力なく下ろした。
御言は『女の子大好きハーレム万歳』と言えと口にしただけで、それ以上のことは求めていない。しかし、本能的な何かが、御言に対してご機嫌取りのリップサービスをさせてしまったのだ。
(堂々とおっぱいが好きとか言ってた愛音さんなら許してくれると思ったのに……)
自分が性的発言をするのと性的対象になるのは別問題である。詞幸はそれがわかっていなかった。
焦点の定まらない目で途方に暮れる詞幸だったが、御言はそれを満面の笑みで眺めていた。
カタカタカタカタカタカタカタカタッ。
噴き出すのを必死に堪えんがために小刻みに震える御言に合わせて椅子が振動していた。
「あ、あの……」
このいたたまれない光景に、どうしたものかと逡巡していた季詠が口を開いた。
「愛音、実はね、さっき――」
おずおずと、僅かに紅潮させた頬で喋る。
詞幸にパンツを見られたこと、その瞬間を写真に撮られたこと、それらが御言の奸計によるものであること。恥ずかしさから話していなかったことについて触れる。詞幸は脅されていただけなのだ、と。
すべてを聞いた愛音は、
「なーんだ、そういうことかー!」
と大口を開けて、はっはっはっ、と笑った。
「いやー見るからに甲斐性なしのふーみんがハーレム万歳なんておかしいと思ったんだよな!」
なかなかに酷い評価である。
「確かに、尻に敷かれるタイプに見えますものね」
御言に悪びれた様子は一切ない。
「それにしてもキョミもなー。そういうことならちゃんと説明してくれれば良かったのにー」
口を尖らせる愛音に、季詠は身を捩って答えた。
「だって恥ずかしいじゃない……パンツ見られたなんて」
最後の方は消え入りそうなほど小さくなっていた。
「女同士なんだからいまさら恥ずかしがるもんでもないだろう。話だけじゃなくて更衣室なんかでいっつも実物見てるんだから。今日もまた水色のブラとパンツなんだなーって」
「もお! そういう話になると思ったから黙ってたのにい!」
真っ赤になってポカポカ叩く季詠だった。