第238話 愛音がいない部活 中編
「ナッシーいないから聞くけどさぁ、詞幸ってエロゲーとかするの?」
「愛音さんがいなくても聞かないでほしいやつ!」
詩乃はニヤニヤしながら言う。
「や~、やっぱナッシーの前だとさぁ、10歳くらいのヒロインしか出てこないようなゲームばっかやってるって答えづらいかなーって」
「いい加減俺のそのロリコンイメージはどうにかならないのかな!?」
「なりませぇ~ん」
何度となく否定しているのだが、想い人が愛音である以上覆ることはなさそうだ。
「まあ父さんのパソコン使ってコッソリやったことはあるけど、1本だけだねえ」
「え?」
素直に答えると彼女はキョトンと目を丸くした。
「なに? 意外そうな顔して」
「いや、だっていつものアンタなら『そ、そんなものやったことなんて1度もないよ! そもそも仮にやったことがあっても言わないけどね! まったく、失礼しちゃうなあ、ブヒブヒ』とか言いそうじゃない?」
「なにそのブタっぽい語尾は!」
悪意を濃縮したようなアテレコだった。
「…………勉強会のときに家探しされて俺の趣味は露呈しちゃってるんだから、ここで否定する方が嘘くさいでしょ」
「それもそっか。でも……ふぅ~ん。どんなエロゲーやったの? やっぱロリ系?」
「食い下がるなあ……。確かにそういうヒロインもいたけど、ああいうゲームのヒロインって体型的にグラマラスかロリか二極化されるからねえ。別に属性に特化したのじゃなくて、至って普通のゲームだよ?」
「うふふっ、ですよね。詞幸くんは大きなお胸が大好きですものねぇ」
「……まぁ否定はしないけど」
と、御言がチラリと視線を横に向けたので詞幸は釣られてしまう。
そこには季詠がいた。
「なんでそこで私を見るの!? 月見里くんのエッチ!!」
「いやこれはっ、御言さんが!」
上手いこと視線誘導されてしまっていた。
「でもそこがよくわかんなくてさぁ、そんなおっぱい星人の詞幸が、どーしてあんな《ザ・まな板》って感じのナッシーを好きになるのかねぇ」
「それは俺の恋がプラトニックなものだからだよ。色欲に惑わされない真実の愛ってやつさ」
フッ、と前髪を掻き上げる。
「はいはい、本人に向かって言えもしないクセにそーゆー恥ずかしいセリフ使わないの」
「う゛っ……」
「てか生理が来てるか気になってる変態が言っても説得力なさすぎ」
「う゛う゛っ……」
痛いところを突かれ返す言葉もない。
「あははっ……でも私も知りたいかな。どうして月見里くんが愛音のことを好きなったのか」
「わたくしも知りたいですっ」
季詠と御言は揃って身を乗り出した。
「ええー、恥ずかしいから言いたくないんだけど……」
「話さないと例の写真をバラまきますよ? 季詠ちゃんのパンチラ姿が全校生徒に晒されるのです。それでもよいのですか?」
「それはダメぇーーー! お願い月見里くん! 私のために話して!」
「はぁ………………わかったよ」
人質を取られてしまっては彼にはどうすることもできない。
彼はスマホを取り出し、画面を操作してテーブルに置いた。
やがて流れてきたのはピアノとヴァイオリンが織り成す優しい旋律。イギリスの作曲家エドワード・エルガーの楽曲『愛の挨拶』である。
「なにそれ……?」
詩乃が訝し気に問う。
「え? 演出だけど。こうした方が盛り上がるでしょ?」
「……アンタ、ホントは話したかったんじゃないの?」