第231話 恋の自覚③
「こほんっ。つまりですね?」
御言は先の発言を誤魔化すように早口で言った。
「わたくしが言いたいのは、理性と感情は別のところにあるということなのです。誰かに言われたことで頭がそれを恋だと認識しても、心がそれに納得してくれない、自分に言い訳してブレーキをかけてしまう――いまのこの醜態がその例です……」
シュンと小さくなってしまう。
「素直に自分の感情を認められないってのは、なんだかツンデレっぽいね」
「ツンデレですかっ?」
御言は頬に手を当てて唸った。
「あう~……自己分析するのも大変恥ずかしいですが、確かにその症状に近いものがあるかもしれませんね…………。反発する心を黙らせられるほど、好きという感情を実感できていないのでしょう。実感がなければ、わたくしの心はきっと永遠にこの感情を恋と認められないままなのです」
「なるほどねえ……初恋だから、好きって感じるのにも慣れてないのかな」
「正直なところわたくしは早く楽になりたいのです……。本当に好きなのならプライドどうこうの話は抜きにしてちゃんとアプローチしたいですし、単純に初恋の甘さに酔いたくもあります。もし勘違いならいままでどおりお友達として楽しく接したいのです。ですが、いまのわたくしにはこの感情がなんなのかわからなくて、どうしたらいいかずっと悩んでいて、なんでもないことで浮かれたり落ち込んだり情緒不安定で、自分が自分でないみたいで、胸が苦しくて――つらいのです」
「うんうん。そうだよね、恋になりかけのモヤモヤのつらさ、俺にもわかるよ」
気が付けば恋愛相談のようなおかしな状況になっていた。
「こんなつらさ、もう耐えられなくて………………。だから、」
顔を上げた御言は毅然とした態度だった。決意の籠った眼差しで彼を見つめる。
「詞幸くんのこと――もっと感じさせてください」
「感じさせてって……」
「わたくしを抱いてほしいのです」
「ッ!!??」
詞幸は息を詰まらせた。噎せて呼吸が乱れる。
「だっ、抱いてって、ここでッ!? いや確かに鍵はかかってるし声は外に漏れないかもしれないけどベッドもないしていうか俺ももちろん経験ないから優しくできるかわからないしいやいやそもそもこの話の流れでいきなりそこまで話が飛び過ぎっていうかもちろん俺は嫌じゃないし興味あるけどでも俺は愛音さんのことが好きなわけだから考えさせてほしい気持ちもあるんだけど女子にそんなこと言わせて恥をかかせるわけにはいかないっていう考え方もあるわけででも自分を大事にすることを諭すのも紳士としての役割だからいきなり本番じゃなくてちょっとずつ段階を踏んで」
「だっ――誰がセックスのお誘いをしたというのですか!! 抱いてほしいというのはハグしてほしいという意味です!!」
必死の形相で詞幸に詰め寄る。
「わたくしのことを恋人でもない相手とセックスしたがるふしだらな女と思ったのですか!? 確かに学校で初セックスをするという高校生もいるようですが、わたくしが相手にセックスを許すときはお互いの両親へ挨拶を済ませてからです!!」
「ごめん俺が悪かった!! 俺がスケベなせいで変な想像しただけだから御言さんは悪くないよ!! だからそんなセックスセックス連呼しないで!!」