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第224話 詞幸の誕生日会 中編

 織歌(おるか)は簡潔な祝いの言葉と共にプレゼントを渡した。

「おめでとう。わたしのは中に普通のうまい棒が40本入っている特大うまい棒だ。ああ、小鳥遊(たかなし)のときと同じだ。プレゼントの質が異なると不公平だからな」

「わあっ、愛音(あいね)さんとお揃いだあ……」

 呟くと織歌はげんなりした顔になった。

「お前、このレベルの共通項で喜ぶのは病気だぞ?」


 愛音はにひひと悪戯っぽく笑いながら。

「アタシからは、アタシが使ってるのと同じネコ柄のシャーペンだ。どうだ可愛いだろー。アタシのが白猫でこれは黒猫。色違いのお揃いになるわけだな」

「すっごく嬉しいよ! お揃いのシャーペンを使うってことはほとんどぺアルックみたいなものだよね!」

 喜色満面の詞幸(ふみゆき)に愛音は引き攣った表情を見せた。

「…………キモい」

「単刀直入のお手本のような罵倒!」

 

 1歩前に出た季詠(きよみ)は上目遣いでもじもじするばかりで包みを後ろ手に隠したままだったが、暫くして決心がついたようにそれを差し出した。

「こ、これなんだけど……月見里(やまなし)くんが使えばもっとカッコよくなると思って選んだんだ。男子にはあんまり馴染みがないと思うんだけどね、ボディミストって言うの」

「げ」

 蛙のような低くくぐもった声は、もちろん詞幸が発したものではない。

 皆が一斉に声の主を向く。

「あっ、や、ごめん。なんでもないから。続けて続けて?」

 詩乃(しの)は手を合わせて頭を低くした。

「もしかしてだけど……詩乃も?」

「あ~……」

 彼女は頬を掻き視線を彷徨わせると、やがて観念したかのように手にした包みを掲げた。

「ごめん、ききっぺと被っちゃった。ホントは香水にするつもりだったんだけど、詞幸の性格的にあんま気取ったのだと使わない気がしてさぁ、香り付きの化粧水って言ったら使ってくれると思って」

「そうなんだ……」

 二人は気まずそうに俯いてしまう。

 と、愛音が深々と溜息をついた。

「ったく二人揃って……お前らどんだけふーみんのこと臭いと思ってんだよ」

「思ってないから!」「思ってないし!」


 御言(みこと)紗百合(さゆり)は二人で一つのプレゼントだと言う。

「かつてユリちゃんは愛音ちゃんのお誕生日会に手ぶらで来るという大ポカをしでかしましたから、その失敗を踏まえ、今回はわたくしと一緒にご用意したのです。さ、ユリちゃん。例のアレを」

「ねぇ御言ちゃん……本当にこれ渡すの? 誕生日のプレゼントとしてはふさわしくないと思うんだけど……」

 年上の紗百合が御言の顔色を窺うのはいつものことだ。

「なにを言っているのですか。ユリちゃんが炎天下のなか必死に並んで購入したのです。誰に恥じることもない、立派なプレゼントですよ」

「ならいいけど……あたしは一応止めたからね?」

 なにやら乗り気でない紗百合から渡されたのは大きな紙袋だった。ズシリと重く、持ち手が指に食い込む。

「なんだろう。二人が用意してくれたんだから高級そうな気がするけど」

「うふふっ、確かに、中身の量に比べると少し高価かもしれませんね。ささ、どうぞ中身をご確認ください」

「どれどれ――って、ええ!?」

 詞幸は驚愕のあまり二度見してしまった。

「エロマンガじゃん!」

「はいっ、正確には同人誌ですね。どちらにしろ18禁ですけれど」

 何冊か取り出すが、それらの表紙は全裸ないし半裸の少女たちで埋め尽くされていた。

 愛音が目を輝かせる横で季詠は視界を手で遮っている。

 紗百合も恥ずかしさに顔を覆うが、御言は対照的にあくまでにこやかだ。

「勉強会で詞幸くんのお部屋に遊びにいったときに、どんなご趣味なのか教えてくださったでしょう? ユリちゃんに行ってもらったコミケの戦利品の中から、詞幸くんの趣味に合いそうなものをピックアップしました。ほとんど巨乳ヒロインですが、同じようなものだと飽きてしまうかもという心配と将来の発展性へ願いから、アクセントにBL本を何冊か混ぜてあります」

「俺の将来になにを望んでるの!?」

「ちなみにユリちゃんのお勧めは高校の男子バレー部ものだそうです」

「やめて御言ちゃん! あたしの過ちをばらさないで!」

「あの……先生、俺読まないですから、よければお返ししましょうか?」

「そういう気遣いは逆に傷口が広がるからやめてほしいわ!?」

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