第223話 詞幸の誕生日会 前編
「「「「「「誕生日おめでとー!!」」」」」」
パン! パン! とクラッカーの音が響き渡り、詞幸は肩を縮めた。
「わあーっ! ははっ、みんなありがとう!」
今日の部活は詞幸の誕生日会である。机にはお菓子とジュースが並び、ささやかながら、16歳になった彼を祝おうというわけだ。
「普通ならここでプレゼントの贈呈なわけですが…………詞幸くんにはプレゼントなんて特に必要ありませんよね? わたくしたち女の子に囲まれて過ごすラブコメ主人公のような毎日こそが、すでにプレゼントのようなものなのですから」
微笑む御言に冷や水のような言葉をかけられ、詞幸は喜びに満ちた顔を一瞬で凍らせた。
「え? いや、確かに毎日楽しいけど……嘘、マジでプレゼントなし……? 愛音さんの誕生日はみんなプレゼント用意してたじゃない。俺だけ扱い違くない? 2学期になってから毎日密かに楽しみにしてたのに…………」
「うふふっ、嘘ですよ~」
御言は顔の前で両手をパッと開いてみせた。
「わたくしたちが部活の仲間に対してそんな冷たいことするわけないじゃないですか」
「な、なあんだ、嘘かあ~。ははっ、御言さんもタチが悪いなあ。すっかり騙されちゃったよ」
「てか信じる方がどうかしてない? ウチらがそーゆー薄情な人間だって思ってるってことじゃん」
詩乃が立ち上がり、背後に回り込んで首に腕を絡めてきた。そのまま力を籠めて締め上げる――ヘッドロックだ。
「こっちはアンタのためにわざわざプレゼント用意してやったってのに! 疑うこと自体が失礼だっての!」
「ごめんなさいごめんなさい! いまのは完全に俺が悪かったです! だから許してください!」
「フンっ!」
謝罪を受けた詩乃は彼を解放し、苛立ちを振り撒くように荒い足取りで自席へと戻っていった。
「もう、詩乃やりすぎ! 大丈夫? 顔真っ赤だよ?」
首をさする詞幸に季詠から心配そうな声がかけられた。
「平気だよ、ありがとう季詠さん」
と返すも、なおも彼女は心配そうに見つめてくる。が、実際、詩乃のヘッドロックはさほど苦しくなかったのである。
彼の顔が赤いのは、詩乃が首を絞めながら耳元でこう囁いたからだ。
――本気で好きな男子の誕生日なんだから。
苦しくはないが、破壊力抜群のヘッドロックだった。