第220話 謎の血統
「話しづらいことだったら無理には聞かないけど……」
そう前置いてから詞幸は御言に尋ねた。
「上ノ宮さんはお父さんかお母さんが外国の方なの?」
「あー……この髪のことですか?」
御言は自らの前髪を少し摘まんで言った。
彼女の髪は綺麗な金髪でとても日本人の血だけで出る色ではない。
またその家柄や本人の性格から染めているとも考えられなかった。
「随分とまたいまさらな質問ですね?」
「いやあ……こういう人種とか出身国とかが関わってくる話ってどこまで踏み込んでいいかわからないじゃない? 嫌がる人もいるだろうし。でもだからって全く触れないのもそれはそれで意識しすぎてるみたいでおかしいっていうか――」
「おいおい、ふーみん。そんなこと気にしてるのか?」
と、愛音もこの話題に参加した。
「自分と相手の違いを変に気にするのは差別への第一歩だぞ? どんなに気になろうが、相手から話してこない限り触れないのがマナーだろうが」
「うっ、そう言われると……ごめんね上ノ宮さん。やっぱりいまの質問は忘れて? 俺が間違ってたよ」
「いえいえ、お気になさらないでください。この髪色には特に理由も根拠もないのです。ただのキャラ付けですから」
「へ?」
「登場人物がみんな同じ髪色だと個性が埋没してしまいますからね。差別化を図るために金髪になっているに過ぎません」
「上ノ宮さんって二次元キャラなの!?」
「あー、髪型とか髪色は重要だよなー。下手なヤツだとキャラの書き分けができてないからヒロイン全員同じ顔に見えたりするからなー」
「なんの話!? そういう問題じゃないよね!!」
「なにより金髪だとベタもトーンも不要! デジタル派なら楽にできる処理でも手書き派には面倒だからなー」
「ちょっと昔の少女漫画には金髪のキャラクターが多いですよね。金髪の方がカッコいいから、というもっともらしい理由で手を抜けるのは素晴らしい手法だと思います」
「上ノ宮さんはモノクロ世界の住人だったのか……」
「まぁ冗談は置いておいて」
御言は見えない箱を横に置くようなジェスチャーをした。
「このような見た目ですが、わたくしには白人――というより、いわゆる外国の血は一滴も流れていません」
「そうなの?」
「はい。屋敷こそ洋風ですが、古い家系ですからね――苗字もどことなく古風でしょう? 欧米列強に屈しないという思想の名残と言いますか、外国の血を受け入れないという前時代的なしきたりがあるのです」
「でも……それならどうしてそんなに綺麗な金髪なの?」
まさか本当に2次元キャラだから、などということはあるまい。
「イメージじゃないけど、やっぱり染めてるから?」
「いえ、これは地毛で――あっ、すみません。電話が」
御言はスマホを取り出す。そして、画面を見て驚きと喜びを表した。
「まぁっ、お婆様からなんて珍しい! こんな時間では時差もあるでしょうに――」
御言はチラリと視線を向けた。このまま出てもいいかと問うているのだ。
「うん、出てあげて」
どこからかけているのかはわからないが、“時差”と言うのだから海外に住んでいるのだろう。
遠方に住んでいる家族からの電話に優先する話などありはしないのだ。
御言は感謝の意を会釈で示すとその場で電話に出た。
「ヌス、イルキテェ。――ジュキアン! ――ヌクタヌクタ! ――ウェルギア? リィア、ウェルギラサ! チキュウ、コキアンホイザ、ススデビグ。ヌス、ヌス――リィア? ――うふふっ。ゼシア、チキュウグンタ、フフリム、ルーイ。チキュウ、メルチィテシ? ――アーロウ。リィア、クリマルス、ヒデ。――ヌス! ジョンツォ!」
ピッ。
通話を終えた御言は、はにかむように笑った。
「ふぅ……お出かけ中に間違ってかけてしまったそうですが、久しぶりにお婆様とお話ができてよかったです」
「いまの何語ッ!? “チキュウ”とかいう単語が何回か出てきたけど!?」
「それは乙女の秘密です。うふふっ」
ウインクしてみせる御言。
謎は深まるばかりだった。