第219話 最近のしののん
授業がすべて終わった解放感と気怠さを濃縮したかのように、部室の中にはのんびりとした空気が漂っていた。
「なーなー、しののーん」
「ん~、なにぃ?」
声をかける愛音が頬杖をつきながらという雑な態度なら、応じる詩乃も詩乃でスマホをいじりながら机の上で溶けているというだらけの極致のような姿勢だ。
「お前最近合コン行かなくなったよなー。どうしてだー?」
「……えぇ~? そんなことなくな~い?」
この質問はヤバいと感じた詩乃は、声音は先と同様に気の抜けた風で誤魔化しつつ、身体を起こして正対の構えを取った。
「嘘つくなよー。前はアタシらが聞いてもないのに合コンの失敗談を話してたじゃないか。やれ男共がパッとしなかっただの、やれ狙ってた男をほかの女に盗られただのさー。なのに近頃まったくそういう話をしないじゃないか」
嘲るように笑う様にはふてぶてしさが満ち溢れている。
「もしかして本格的に好きなヤツでもできたのかー?」
「………………」
その発言は詩乃にとっての急所、図星のさらにど真ん中であった。
「ま、まぁ、そんなトコかな~?」
あからさまに詞幸のいる方とは逆を向くものだから、事の成り行きを見守る渦中の彼はその不自然さにヒヤヒヤするしかない。
「もうデートもしたし、相手の部屋で二人きりで過ごしたこともあるし~……」
「あー、やめとけやめとけ。お前みたいなあばずれビッチが普通に恋愛なんてちゃんちゃらおかしい」
愛音はわざとらしくやれやれと肩を竦めるジェスチャーをしてみせた。
「お前はとにかく我の強い女だからなー。どうせ本性を知ったら男の方から逃げてくぞー? いかにぶりっ子して気さくで付き合いやすいギャルを演じようともなー、自分勝手なビッチの本質は隠せないんだよ」
失礼極まりないプロファイリングだが思い当たるふしがあるのか、詩乃は喉の奥で唸るだけで反論する様子がない。
「合コンに来るような前のめりな男とじゃー、ぶつかり合って互いに怪我するだけだろう。磁石の同じ極同士が反発し合うように、近づくことはできても結局はくっつけないんだ。そんなお前に合うのは、お前と正反対の性質を持った男――したたかなS極の対極に位置するN極。そう、」
愛音は腕を伸ばして詩乃を指差し、それをゆっくり右へと旋回させた。
「ふーみんのような、なよなよ系男子なんだ!」
人差し指を向けられ、詞幸の肩はビクリと跳ねた。
「いやー、そう考えるとお前らのことがお似合いに思えてきたなー。まー、チョロいふーみんがしののんに惚れることはあっても、しののんがふーみんのことを好きになるなんてありえないだろうけどな! わはははははっ!」
「……きゃははは、そうだよナッシー。ウチがコイツを好きになるなんて100億%あるわけないじゃ~ん」
「そうそう、俺なんかには縫谷さんみたいに魅力的な女子はもったいないよお。はははは」
詩乃&詞幸は冷や汗をかきながら乾いた笑いを漏らすのだった。