第21話 上ノ宮御言の策略③
なぜ御言は、詞幸が季詠のパンツを覗いた瞬間の写真を撮ることができたのか。
二人は同じ答えに辿り着き、顔を見合わせた。
「「――ハメられた!?」」
そう、季詠に棚の上の荷物を下ろさせたのも、詞幸にガムテープを拾わせたのも、全ては御言の策略だったのだ。
掌の上で躍らされていたことに気付き、揃って非難の眼を向ける。
しかし事件を計画した犯人は、
「そんな人聞きの悪い。たまたまですよ、たまたま。たまたま偶然にもカメラが起動していたので慌てて撮っただけですってば」
とシラを切る。
「そんなことより正直に白状したらどうですか。乙女を辱めておきながらそれを誤魔化すなんて漢らしくないですよ」
詞幸に向けられたその眼差しは、いかなる言い逃れも通用しないと告げるように険しく細められていた。口元はニマニマ嗤っていたが。
「いいんですかー? 正直に言わないとこの写真を校内にばら撒きますよー」
「それ、私も恥ずかしいんだけど……」
羞恥から小さくなった抗議を当然のごとく無視し、御言は詞幸に詰め寄る。
「さぁ、早くどんな色と柄だったか答えるのです。さもないとSNSで拡散しますよ。『性欲魔人の同級生が大胆なパンツの覗き方を披露|(笑)』という感じで」
「ぐ、ぐぬぬ……」
葛藤し、悔しさに歯を食いしばる詞幸。
その様に御言は愉悦でゾクゾクと全身を震わせる。
「見てないんだよね!? 月見里くんは見てないんでしょ!? さっきそう言ったよね!?」
「うふふ、季詠ちゃんは黙っていてくださいね」
邪魔をしたらそれ相応の報いがありますよ、という言外の脅迫を感じ取り、季詠は不承不承、口を噤んだ。
「…………」
心を落ち着けるように、詞幸は深く息を吸い込んだ。
きつく眼を閉じ、重々しく口が開く。
「…………水色」
それは呻き声を絞り出すかのようだった。
「……水色の、チェック柄だった……」
「やっぱり見られてたー!」
季詠は両手で顔を覆った。
「どんなチェック柄ですか?」
「ギンガムチェックでした!」
「しかもかなりじっくり!」
「さあ季詠ちゃん、正解は!?」
「当・た・り・で・す!!」
もうどうにでもなれ、と羞恥の涙を浮かべて叫ぶ。
「おめでとうございます! 詞幸くん見事大正解ですー!」
詞幸は項垂れ、季詠は耐え難い恥ずかしさに耐えて涙を拭い、ただ一人嬉々とした御言の拍手が虚しく室内に響いていた。