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第218話 御言との電話

 夜、詞幸(ふみゆき)がベッドに寝転んで本を読んでいるとスマホが鳴った。「え?」と画面を見て困惑したのも一瞬のこと。彼は起き上がり、居住まいを正してから応答した。

「もしもし、上ノ宮(かみのみや)さん?」

「夜分遅くにすみません。お眠りになるところでしたか?」

 時計を見るとまだ10時になったばかり。多感な高校生にとっては宵の口だ。

「ううん、全然。いっつも寝るのは12時くらいだから大丈夫だよ。で、俺になにか用?」

「いえ、特にこれといった用はないのですが、」

 御言(みこと)は躊躇いがちにその続きを口にした。

「なんだか無性に貴方の声を聞きたくて――」

「え?(トゥンク)」

「うふふふっ、ドキッとしましたか? 1度言ってみたかったのです」

「なっ、なあんだビックリしたあ……。危うく本気にするところだったよ」

 御言はイタズラの成功にコロコロ笑う。

「実はですね、折角自由にお電話をかけられるようになったので、とりあえず話術部の皆さんとお話しをしてみようと思いまして。何日かに分けてお電話しているのですが、詞幸くんは1番最後、オオトリに選ばれたのです」

 脅迫という強行手段によってだが父親の束縛から解放されたばかりなのだ。その自由を満喫しようと浮かれるのも無理からぬことだろう。

「おうちでリラックスしている皆さんと二人きりで話すと、内緒話もできますし、いつも話術部でお話しするときとは違う印象で面白いのですよ。まるで別の顔を見たような――」

「なるほど。それでビデオ通話なんだね」

 そう、詞幸はさきほどから画面の中の御言と対面しているのだ。

 背景には絵画が飾られたお洒落な壁と天蓋付きのベッドが映っている。その前に座る彼女は髪を下ろした姿で、学校で会うときとはだいぶ印象が異なる。

 これも別の顔と言えるだろうし、もしかしたら御言にも風呂上がりの自分は違った風に見えるのかもしれない。

 そう思っての発言だったが、御言は恥ずかしそうに身を捩った。

「いえ……これは単純に押し間違えたのです。あまりスマートフォンの操作に慣れていないので、そうとは気づかず…………」

 と、彼女は自分の失敗から目を逸らすように首を振った。

「ところで詞幸くん、わたくしの下着姿が見たいのですよね?」

「それはっ……! 数時間前の失言を掘り返さないでよ……」

 御言はくすくす笑った。

「いまはわたくししかいないのですから、周りの目を気にすることはないのですよ? それに、」

 嫣然とした笑みは破壊力抜群だ。

「わたくしがいまどんな格好をしているのか気になっているのではないですか?」

 それは確かにそのとおりだった。

 画面越しに見る御言はほとんど顔のアップではあるが、艶めかしく露出した肩口がチラチラと映り込んでいるのだ。

 普段からガードの堅いお嬢様の無防備な姿に、ドキドキしないわけがない。

「うふふっ、正直者ですね。言葉にしなくてもわかってしまいます。目が血走っていますよ?」

「え、嘘!?」

「噓です❤」

 完全に御言のペースだった。話術で彼女に抗うことはできない。

「ご安心ください――いえ、この場合は残念ながらと言った方がいいですかね。――ほら、見えますか? このネグリジェは詞幸くんが期待するようなスケスケなものではありませんから、エッチな状況にはなっておらず、いたって健全です。うふふっ、お気の毒様でしたね」

(いやっ、その状態でも胸の谷間が見えて十二分にエッチです!)

 フリルのついた純白のネグリジェからはデコルテが露出しており、強い色香が漂っていた。

 カシャッ。

「? いまの音はなんですか?」

「…………なんでもないよ?」

「怪しいですね。正直に言えば許して差し上げます」

 スマホの扱いに慣れていない御言は未だ気づいていない。詞幸は沈黙を貫くことに決めた。

「むっ、教えてくれないのですね。いいです、あとで愛音(あいね)ちゃんに聞きますから」

「それだけはやめてください! ――いまのは、スクリーンショットを撮った音です! 上ノ宮さんのネグリジェ姿が、その……あまりにもエロ可愛いので…………」

「ふぇっ?」

 目をパチクリ。御言は虚を突かれたような表情のあと、ツンと横を向いてしまった。

「ふ、ふんっ、そんなことを言ってご機嫌を取ろうとしても無駄ですからねっ」

「そうだよね、ごめん。このデータは消すよ」

「い、いえっ、別にっ、そこまでしなくても構いませんからっ。むしろそのまま待ち受けにしてくれても――」

「え?」

「あっ、あ~っ! 大変です、急に眠気が襲ってきました! これはいますぐ眠らないといけません! 勝手で申し訳ないのですがここで失礼いたします、おやすみなさい!」

 捲し立てるように言い終えると、彼女は通話を終えてしまうのだった。

「…………待ち受けにはできないけど、しっかり保存しておこう」

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