表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/301

第215話 女子部員だけの秘密 前編

詞幸(ふみゆき)くんがいないのです、せっかくですから女の子だけでしかできない話をしてみませんか?」

 御言(みこと)が胸の前で手を合わせてみんなの顔を見回した。

 言わんとしているところを察した詩乃(しの)は、髪を指に巻きつけて引き気味だ。

「まさかそれって――」

「はいっ、エッチな話ですっ」

 それは実に朗らかな笑みだった。しかしほかの面々の表情には緊張が走る。

「皆さんがこれまで体験してきた、異性とのエッチなエピソードを披露してもらいます。別にお相手の名前を挙げなくても構いませんし、個人を特定できそうな情報を伏せるのも当然可能です。では順番は」

「え、ちょっと待って御言」

 と、そこで口を挟んだのは季詠(きよみ)だ。

「……エッチな話をするの? みんなで?」

「はい。思春期ですもの、みんな興味があるはずです。季詠ちゃんも好きですよね、エッチなこと」

 同じ罪を犯した者同士なのだ。なんのことを指して言っているのかわからない季詠ではない。

「………………」

 ここで強く否定して墓穴を掘る事態だけは避けたいと、彼女は黙って俯く。

 それを無言の肯定と受け取った御言は満足げに頷き、話を続けようとしたところで、またもや出鼻を挫かれてしまった。

 愛音(あいね)が立ち上がり、遺憾の意を示したのだ。

「待て待てミミ! お前は間違ってるぞ! いや、お前の話題選び自体は間違っていない。男がいないというこの状況に相応しいし、確かにアタシもエロい話は好きだ。けどな! 『()()とのエッチなエピソード』に限定するとはどういう了見だ! 多様化する性への理解が叫ばれる現代において、同性とのエロエロエピソードを排除するなんて正気の沙汰じゃないぞ! ていうかアタシは女のカラダにしか興味がないから話すことがない! 女体について語らせろ!!!」

 その熱い咆哮を、話術部の部長は目を閉じて真摯に受け止めていた。

「ごもっともな意見だと思います。わたくしとしても、百合への興味もありますし、BLへの関心も高まってきています。それ以外の、獣姦、異種族、無機物――あらゆる嗜好、あらゆる繋がりも否定する気はありません。ですが――」

 彼女の瞳には強い光が宿っていた。

「ですがいまは、男女のエッチな話を聞きたい気分なのです!」

「…………なにこの酷い会話」

「私もう帰りたくなってきた……」

 げんなりする詩乃と季詠。そんな彼女らを無視して御言は続ける。

「しかし、愛音ちゃんの言うように、そういった体験をしてこなかった人もいるかと思います。なにせ、わたくしたちは男性とお付き合いしたことがないのですから。詩乃ちゃんはお付き合いの経験があるようですが、それもごく短期間のこと。あったとしても軽いスキンシップ程度でしょう?」

「……まぁね。人に語れるほど内容の濃いもんじゃないけど……」

「そう、わたくしたちは生娘なのです。人様に披露できる経験などしていない未熟者なのです。ですが、だからこそ、憧憬の念は絶えません。ああ、どこかに、ラブラブな彼氏さんがいて、いろいろな経験を積んでいる、素敵な女の子はいないでしょうか――」

「………………………………………………」

「いないでしょうか――」

「くっ…………!」

 傍らから送られる熱視線に耐え兼ね、隠れるように沈黙を貫いてきた織歌(おるか)が口を開いた。

「やはり矛先はわたしに向くか! 最初からこうするつもりだっただろう、回りくどい奴め!」

「あら、気づかれていましたか」

 御言は悪びれもせずクスクスと笑った。

「それでは話が早いですね。織歌ちゃん、彼氏さんとの初エッチの体験談を話してくれますか?」

「な…………ッ!?」

「えっ、アンタらもうヤッてたの!?」

「そ、そういうデリカシーがないこと聞くのは駄目だと思う!」

「………………………………」

 驚きに目を見張り興奮を隠せない詩乃、口とは裏腹に身を乗り出して傾聴の構えを取る季詠、生々しい話に耐性がないために赤面して俯く愛音――三者三様の反応を前に、織歌の思考はグチャグチャになり冷静さを欠いていた。

「でででデタラメを言うな! わたしとあいつはまだそんな」

「まぁ、性経験の有無というのは一種のステータスとして見られることもありますから、女の子にとっては秘密にしたいことでも、男の子にとっては自慢したいことだったみたいですよ?」

「そんなっ……まさか、あいつが言い触らしていたのか!?」

「うふふっ、噓ぴょんでーっす♪ カマをかけちゃいましたっ」

「は……?」

 顔が急激に蒼ざめる。同じ手口で騙された経験のある織歌は、口をあんぐりと開けて放心状態だ。

「そうですか~、織歌ちゃんはもう大人の階段を昇っていたのですね~?」

「くっ、くそ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」

 口汚い罵声は、騙した御言ではなく、この状況を招いた詞幸へと向けられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ