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第213話 リアル体験 後編

「どう? 気持ちいい?」

「そう、言われても……っ」

 心臓が口から飛び出そうだった。

 頬に伝わる詩乃(しの)の太腿の感触は柔らかく、しっとりしていて、それでいてすべすべで、そして温かかった。

 少しでも頭を動かすとその存在感が伝わってきて理性を侵すため、動かさないように動かさないようにと自分自身に命じているのだが――男の(さが)か、ふとした瞬間に頬ずりしたくなってしまう。

「そんなに気持ちいいならもっとスリスリしていいよ?」

「っ、人の心を読まないでくれますか?」

 きゃははっ、と詩乃は笑い、耳たぶをマッサージする。

「いやぁ~、マジで真っ赤。ウチも男の子相手に膝枕すんの初めてだからちょっと恥ずいかもって思ってたけど、こんだけ照れられると逆にこっちは冷静になるわ~。もうおかしくておかしくてしょうがない感じ」

 言いながら、綿棒で優しく耳の内側を撫でていく。

 それはあまりにも弱い力で、掃除をするためというより、くすぐるためにしていると言えた。

「んっ……ぁ……っっ……」

 反射的に身体がビクビクと動いてしまう。

 そして身じろぎすると頬と太腿が擦れるのだ。ダイレクトに感じる人肌の温もりに、理性が焼き切れないよう耐えるのに必死である。

「ねぇ――」

 そんな彼の耳元に、詩乃が甘い声で囁いた。

「○ッキした?」

「ボッ――!?」

 思わず跳び起きてしまった。

「ちょっとぉ、いきなり動いたら危ないじゃんっ。鼓膜破れても知んないよ?」

「だってそれは詩乃さんが変なこと言うから!」

「で、どうなの?」

「………………」

 強い非難の意味を籠めて睨んだが、彼女はケラケラと笑うだけで反省の色を見せなかった。

 完全に彼女のペースだ。しかし、その包み込むように余裕のある態度に――母性と言っていいのだろうか――抗う術を詞幸(ふみゆき)は持たない。

「ほら、もっかい頭乗っけて? ――あ、待って待って、今度は逆。右耳やるから。寝たままでいいから、頭回して?」

 言われるがまま、彼は寝そべった状態で180度回転した。

「あっ」

 そして、気づく。

 この状態は、詩乃の太腿、そのさらに奥を覗き込むような体勢であることに。

「…………っ!」

「きゃははっ、詞幸ってばダイタ~ン。どう? パンツ見える?」

 彼は言葉にせず、ギュッと目を瞑ることで答えた。起き上がってどくという選択肢を選ばなかったのは、詩乃がすでに右耳に綿棒を挿し入れていて危ないと判断したからだ。

(決して、太腿の誘惑に負けたからではない! 決して!)

「そーそー、じっとしててねぇ~。――って、ちょっ、ヤバッ、鼻息くすぐったい! 変なトコ当たってんだけどぉ!」

 詩乃が悶えて身じろぎするが、なにが起きているのか、状況を確認することはできない。

 いま目を開ければ、己の鼻息がどこを刺激してしまったのかを目の当たりにしてしまうのだ。

 彼にできるのは、静かに彼女に語りかけることだけだった。

「詩乃さんさあ、こういうのはやめた方がいいよ。俺だって男なんだし、いつどんな気を起こすかわかんないんだから」

「それ言ったらアンタだってほいほい女を部屋に上げない方がいいんじゃない? ウチ的には、手段を選ばなければ詞幸をおとせる――てか結婚までいくのだって簡単なんだし」

「『手段を選ばなければ』って……なにするつもりなのさ」

「こうして部屋で二人っきりなら、あとはアンタを襲ってエッチしちゃえばいいだけじゃん」

「え、エッチ!?」

「そ。いざとなればエッチしちゃえるくらいには詞幸のこと好きだから。それにアンタだってもしそうなったら、ウチを傷つけないよう、拒めても拒まないだろうし」

「…………」

「で、生でヤッちゃえば、もし赤ちゃんができなくても責任感じてウチと結婚するっしょ? ウチから襲ったんだとしてもね。アンタってそーゆーヤツじゃん?」

「………………そうだね、そうなると思う」

 それほど長い付き合いではない。が、悔しいほどに彼女は自分のことをよく理解している。

 理解してくれている。

「だからウチは絶対そんなことしない。アンタとこーやって、フツーにイチャイチャしてたいし。――はい、おしまい! ほら、仰向けになって。もう目ぇ開けてもダイョブだから」

 見上げると熱っぽい瞳が見つめ返してきて、彼は思わず目を逸らしてしまうのだった。


 ――その夜。

 母親から「これから下着は自分で洗ってもらう方がいいかしら?」と言われたのは余談である。

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