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第210話 学園祭に向けて 前編

 2学期3日目――つまり、話術部の活動2日目。

 顧問である調(しらべ)紗百合(さゆり)は部長以下部員たち全員からお説教を受けていた。

「――ですから、学園祭まであと3週間とちょっとしかないのです」

「パンフレットの校正とか印刷とかの手間があるから、実行委員会には今日中に出せって言われたなー」

「なんか俺たちが悪いみたいな雰囲気だったよねえ」

「まぁ1学期中に出ているべきものが出ていなければ、憤慨するのは当然だろうがな」

「そーゆー大事なことってフツーはユリせんせーが取り仕切るもんじゃないんですかぁ?」

「顧問の承認が必要なんですから、紗百合先生も話し合いに参加してくれないと困るんです。昨日はなにしてたんですか?」

「うぅー……ごめんなさいぃー……部活開始は今日からだと思って帰ってましたぁー……」

 その美貌とグラマラスなスタイルによって、男子生徒のみならず男性教師たちからも絶大な人気を誇る若手教師ではあるが、あいにく話術部は圧倒的に女性部員優位の部活である。どんなに瞳を潤ませようとも、手心を加えようなどという雰囲気にはならなかった。

「私、前々から先生はお仕事に対する感覚がルーズだと思ってましたけど……」

「生徒の範となるべきという自覚が足りてませんね」

「うわぁ~、教師失格じゃん」

「頭に行くべき栄養が全部おっぱいに行ってんじゃないかー?」

 女子部員たちが口々に(なじ)るなか、御言(みこと)も頬に手を当てて溜息をつき、諦観を表した。

「はぁ……仕方ありませんね。憤懣やるかたないところではありますが、いくらユリちゃんを責め立てたところで時間が巻き戻るわけでもありません。ここは建設的に、これからのことを話し合うために時間を使いましょう」

 学園祭は9月最後の土日に行われる。

 本来であれば1学期のうちに出店内容を決定、実行委員会に報告することになっていたのだが、紗百合の不手際によりまだ1度も話し合われていなかった。

 決めるべきことは山ほどあるのだ。

「御言ちゃん、許してくれるのっ?」

「いいえ、例によって例のごとく、ユリちゃんには愉しい折檻によって恥辱に(まみ)れてもらいます♪」

「笑顔が怖いわ!?」

 (おのの)く紗百合を解放し、各々が席に着いて話し合いが始まった。

 昨日ここに学園祭実行委員がやってきたのは完全下校間近のこと。(ろく)に話し合いの時間は持てず、決まったのは『とにかく話術部でなにかやろう』という漠然とした目標のみで、細部どころか大部分が白紙のままなのである。

「食品系は検便が必要になるからいまからじゃもう間に合わないらしいし、そもそもこの少人数で回せる内容ってなるとできることは相当限られてくるよねえ……」

「そうね、みんな自分たちのクラスの当番もあるから結構厳しいと思う」

 頭を悩ませる詞幸(ふみゆき)季詠(きよみ)が同意する。愛音(あいね)も腕を組んで口をへの字に曲げて思案顔だ。

「むー、まだ1か月近くあるから余裕かと思ってたんだけど、割とヤバめな感じなんだなー」

 顧問はあくまで監督的立場であり出し物の運営自体に関わることはできない。つまり、なにをやるにしても最大6人で賄わなければならないのだ。

「てかさぁ、やるとしたら出店(でみせ)系なん? ほら、演劇部が舞台やるとか美術部が展覧会開くみたいにさぁ、なんかステージで発表するとか、これまでの活動内容を展示するとかじゃなくていいん? や、ウチらに人に披露できるような活動実績がないのはわかってるけどさぁ」

「確かに、大会があるような部活動ならまだしも、大会のない部活の場合は学園祭での活動発表が実績になるものですからね。まるで実績がなければ予算減額、場合によっては廃部と聞いています。わたくしたちの場合は今回を逃したら挽回の機会はないと言っていいでしょう」

 詩乃(しの)の疑問に御言が答える。この笑えない話に、織歌(おるか)はさらに不吉な情報を付け足した。

「調べたところ昨年の学園祭ではなにもしていないようだから、これ以上学校側の覚えを悪くするわけにはいかないだろうな。場合によっては(・・・・・・・)、ではなく、確実に(・・・)アウトと考えていい」

「そう考えると、基本おしゃべりして遊んでるだけの話術部ってかなりヤバいんじゃ……?」

 下手をすれば来年度は廃部で愛音と過ごす口実がなくなる、という可能性に詞幸は青ざめた。

「ふっふっふ、それは大丈夫。心配には及ばないわ。なんてったって我が部には頼もしい部長と副部長がいるんだから!」

 しかし、この危機的事態を招いた張本人である紗百合は不敵に笑ってその想像を打ち払う。

「こんなこともあろうかと、あたしは御言ちゃんと古謝(こじゃ)さんの二人にこの部活に入ってもらったの。それぞれ吹奏楽部と帰宅部を希望していたところを直々に勧誘したのはそのためよ」

 それは初耳だった。

 織歌は彼氏との帰宅時間を合わせるため入部したのだと聞いているし、御言は紗百合と旧知の仲だから自分から率先して入ったのだと思っていたが、実はキッカケは別だったのだ。

 しかし、それが部の実績云々の話とどう繋がるのか。

 詞幸が「なんでなんですか?」と問うと、紗百合は御言と織歌に誇らしげな視線を送った。

「それはね、御言ちゃんは英語スピーチコンテストで、古謝さんはビブリオバトルで――なんか話術っぽい大会で中学時代に好成績を残しているからよ! 二人はきっと高校でも個人的に頑張ってくれていい成績を残すわ! そしたら話術部での活動がよかったからってことになって部の実績にもなるから全部まるっと綺麗に解決! ついでにあたしの評価も鰻登り!」

「な、なんて浅ましい考えなんだ……!」

 相変わらず清々しいまでに無責任な顧問に、詞幸はむしろ感嘆してしまうのであった。

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