第209話 自由ゆえの暴走
「いやー、なにはともあれミミが自由になったのは本当に喜ばしいことだな!」
愛音が詞幸にウインクした。
その愛らしい仕草にいつもの詞幸であれば歓び狂うところではあるのだが、このタイミングそんなことをしたということは、彼の再三に渡る説明空しく、彼女は詞幸が御言を好きだと未だに勘違いしているということである。
「女だけならまだしも、ふーみんが一緒だと遊びに誘うのにも頭を使わないといけなかったからなー。気軽に連絡できるようになったってのは、ミミだけじゃなくてアタシらにとってもいいことだよなー」
「はいっ。わたくしとしても、使い勝手ばかり悪くて特に発展性のない設定でしたから難儀していたのです。物語上、男女のすれ違いを描くために通信機器の使用を縛ることはよくありますが、それが通用するのはケータイやポケベルが普及する前の時代だけです。今どき自由にスマホも使えない女子高生というのはいささかリアリティーに欠けますからね。新学期の始まりとともに解決できたことは大変嬉しく思っていますっ」
「相変わらず上ノ宮さんはよくわからない尺度で物事を捉えるね……」
詞幸のそんな呟きに被せるように、詩乃が大仰な身振りで喜びを表した。
「なんにせよやったじゃん! これからはみーさんと二人きりで話したいこととか自由に電話していいってことでしょっ?」
「はいっ、事務所NGトークはないので話したいこと聞きたいことはどんどん連絡しちゃってくださいっ」
古謝織歌は詩乃とは対照的にあくまで普段通りの冷静な物言いで、けれど表情には友人の自由を祝う笑みを湛えていた。
「いや、その前に写真の共有だろう。上ノ宮には渡せていない写真が何枚もあるんだ。月見里が映り込んだりしているせいでな」
「映り込むって表現酷くない? 俺も話術部の一員なのになんか部外者とか幽霊でも写っちゃったみたいな扱いじゃない?」
「気にし過ぎだ。お前も同じ話術部の大切な仲間(笑)だからな」
「『カッコ笑い』ってわざわざ言った!」
「ふふっ、こういう他愛ない会話が家に帰ったあともできるようになるのはいいことだよね。いままでは御言を仲間外れにしちゃうかもって、あんまりグループチャットとかしてこなかったから」
季詠が言うと、御言は申し訳なさそうに眉を下げた。
「まぁ、そうっだったのですか? すみません。皆さんには知らず知らずのうちにお気遣いいただいていたのですね……」
「そんな、気遣いだなんて! ごめんね、私の言葉選びが悪かった……。友達だもん、それくらいするのは当然だよ。私たちが好きでやってたことなんだから気にしないで?」
「いいえ、わたくしは当然のこととは思いませんし、やはり気にしてしまいます」
首を横に振って、全員の顔をゆっくりと見回す。
「それは受けて当然の配慮ではなく、皆さんの優しさと思いやりがあればこその行いでしょう。ですから――ありがとうございます。このような得難い友人たちと共に青春を謳歌できて、わたくしは感無量です」
一言一言を優しく撫でるように紡がれた感謝。
温かな微笑みが皆に浮かぶ。
その静かな言葉に部員たちは感じ入ったようだった。
「ですがっ、これからは遠慮無用です! いままで我慢していた分、どんどんばしばしセクハラメッセージやエッチなギャグを送りつけてくださいね!」
「御言は友達をなんだと思ってるの?」