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第208話 自由への闘争

 顧問を除いて全員が出席した2学期最初の話術部の活動は、御言(みこと)のこんな報告から始まった。

「実はわたくし――ついにお父様の監視の目から解放されることになりました~! ドンドンパフパフ~!」

 一人だけテンションの高い彼女に周囲は取り残されたようになってしまう。

 それもそのはず、彼女の父親は通常の尺度で規定する“厳しい”という表現で語るのが生温いほどに厳格なのだ。

 男の接近を許さず女子校に通わせようとし、漫画を有害と決めつけて取り上げ、インターネットの使用履歴を確認し、果てはスマホの通信履歴まで抜き打ちチェックする執拗ぶり。

 娘という”人間”を育てるのではなく”人形”として愛でるがごとき偏執性を持つ――そんな彼女の父親が、簡単に娘の自由を認めるとは思えなかったのである。

「でもさ、上ノ宮(かみのみや)さんのお父さんってすっごく厳しい人なんでしょ?」

 沈黙を保つ面々を代表して詞幸(ふみゆき)が尋ねる。余所様の家庭事情にずけずけと踏み込むわけにもいかず、その問いは御言の自発的な発言を促すようなものだった。

 対する御言はあくまでも軽い調子で答える。

「はい、それはもう(いわお)のように厳しい人です。簡単に説得できるような人ではありません。本来であれば問題の解決は、意味深な言葉と共に不登校になるわたくし、キザでいけ好かない許嫁の登場、転校を余儀なくされるわたくしからのSOS、そして助けに来てくださった皆さんがお父様と直接対面をしてこれまでの思い出と固い絆を披露し、娘の成長と己の過ちを涙と共に認めさせ最高のハッピーエンド――というおよそ30万文字で構成される、文庫本なら上下巻に分けて刊行されるであろう長編エピソード『上ノ宮御言編』として大々的に描写されてしかるべきお話なのです」

「確かにヒロインを助けに行く展開とかラブコメなんかに多いけども! これは現実だから!」

「ちなみにエピローグは、許嫁が主人公――つまり詞幸くんの男気に惚れるという展開でオチです」

「腐女子需要までカバーしないでいいよ!」

「うふふっ、まぁそんな重要エピソードでも、わたくしにかかれば1行以内に収められてしまうのです」

 御言は胸の前で手を合わせ、可愛らしく首を傾げてみせた。

「弱みを握ったので社会的に抹殺しますよって脅迫しちゃいました~♡ てへぺろ☆」

「そんな明るく言うこと!?」

 物騒な内容と声のトーンが全く噛み合っていなかった。

 しかし御言は顔を強張らせる詞幸に対して、小話を聞かせる程度のノリで説明を続ける。

「流石はわたくしのお父様、なかなかボロを出しませんでしたが、その機会を数年間狙い続けてようやっと尻尾を掴んだのです。このネタを公表されたら離婚は必至、お父様は変態エロオヤジの誹りを受けてグループトップの座を譲らざるを得ませんからね、すぐ大人しくなってくださいました」

「い、いったいどんな弱みを握ったのさ……エロ方面なのはわかるけど……」

「それは――うふふっ、詳細は話せません。家族の醜聞を(いたずら)に広めるのは本意ではありませんし、なにより、」

 彼女はそこで言葉を区切ってクスリと嗤った。

「皆さんの身の安全のためにも知らない方がいいことです。お父様も愛娘だから口封じしなかっただけで、他人に対してはその限りではないのですから――」

 (くら)く怪しい輝きを放つ瞳に貫かれ、それ以上の追及はできなかった。

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