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第205話 ぬいやけ⑦

「や~、なんかマジな雰囲気だったからちょっと和ませてあげようかと思って~」

 香乃(かの)のせいで甘酸っぱい雰囲気に満ちていた空気が白けてしまった。

「余計なお世話にもほどがあるんだけど……」

「まぁぶっちゃけて言うと、お姉ぇが急にツンデレ乙女モードになって目にハートが浮かべてるのがなんかキモッ! ってなったからなんだけどねぇ~」

「アンタねぇ~~~~~~~~ッ!!」

「てゆーか、妹の前でマジ告白とか恥ずかしくないわけ?」

「はっ……恥ずかしいけど! そりゃぁね!」

 妹に掴みかかろうとしていた姉は浮かせかけた腰を下ろした。

「だってそれは……アンタが詞幸(ふみゆき)のこと悪者扱いするからっ」

「はぁ~~~ん? 好きな人のこと悪く言われるのが嫌だったんだ?」

「そーゆーんじゃないけど……」

 でも好き、と。

 拗ねたような口調で詩乃(しの)は零した。

「聞き間違いじゃなくて、本当に俺のこと好きなんだよね……?」

 まだ現実を理解できていないのか、詞幸は頬を朱に染めて念を押すように尋ねる。

「あーもーそうですぅ~。ウチはアンタのことが好きですぅ~。はい、これでいい?」

 何度も想いを口にして羞恥心が麻痺したのだろう、耳まで赤くした詩乃はどこかやけっぱちになっていた。

「別におかしなことじゃないでしょ? 毎日部活で顔合わせて一緒に帰って、カラオケ行ったり買い物したりプール行ったりしてさぁ、一緒にいた時間だってそれなりにあるわけだし色んな話したわけだし、そんなことしてればフツー好きになるでしょ。詞幸だってクラスメイトを好きになってんだし、おんなじ時間を過ごしてればそういう感情が芽生えるのは普通じゃない? だからウチがアンタのことを好きになったからってそんな大袈裟にするようなことでもないし、そもそも好きって言ったって『好き』にも程度があんだからね? 確かにウチのは恋人になりたい的な好きだけど、結婚目前にしたカップルが言う好きとは強度が違うわけ。わかる? 5段階で言うと3くらい。ウチはそこまでアンタのこと手放しで好きなわけじゃないから、そこんとこ勘違いしないでよね。ウチがアンタに惚れてるからって、なんでもかんでも許すわけじゃないし、いつまでも好きなわけじゃないから。いまは好きってだけの、あくまでも期間限定の恋愛対象だし。詞幸の恋愛がうまくいかなかったときの保険みたいな扱いでキープされるつもりはないから。ウチの好きはその程度なの。わかった?」

(うわぁ、お姉ぇやっぱツンデレじゃん……っ)

 凄まじい言い訳のマシンガンだった。

(こんなん普通に好き好き言うよりも、逆にものすごく意識しまくってるって言ってるようなもんじゃん。うぁ~、あたしまで恥ずかしくなってきたんだけど……!)

 傍で聞いていた香乃が悶える斜向かいで、しかし直接言葉を向けられた詞幸は呆けたように固まっていた。

 詩乃がプリプリと頬を膨らませる。

「ねぇ、ウチの話ちゃんと聞いてんのっ?」

「あっ、ごめん……。俺、告白されるのって初めてだからすごくドキドキしちゃって……。人に好かれるのってこういう感覚なんだね――。なんだか夢みたいにフワフワしちゃって地に足がついてない感じだけど、現実なんだよね。嬉しくて、幸せに包まれてるみたいで――」

 彼はその眼差しを真剣なものへと変えた。

「でも俺は」

「待って」

 詞幸が言いかけた言葉を、詩乃は鋭い調子で制した。

「花火のときのもだしいまのもだけど、ウチは別に告ったわけじゃないから。告白だけど告白じゃないから。答えなくていい」

 理屈になっていなかったが、その言葉には有無を言わせぬ響きがある。

「てか答えなんてわざわざ言われなくてもわかってるし、言葉にされても惨めなだけだから言わないで、お願い」

 強い声で、しかし最後は懇願するようだった。

「わかった」

 短く答えた詞幸に、今度は弱々しく言う。

「ありがと。ウチは詞幸とナッシーが仲よくすんのを邪魔しないつもりだけど、でも、やっぱ嫉妬はしちゃうから、もしかすると迷惑かけるかもだし、好きでもない誰かに好きでいられんのもケッコー重荷だと思うし…………アンタはヤな思いもするかも知んないけど――」

「嫌だなんてそんなことないよ!」

 明確な否定が、彼女の弱気を吹き飛ばす。

「自分を好きになってくれた相手を嫌いになるなんてありえないし、一緒にいて楽しいのは俺も同じだから! 詩乃さんとはこれからも仲よくしたい! こんなこと言うのは正しいかわかんないけど――俺は詩乃さんのこと友達だと思ってて、だけど女の子として魅力的で可愛いって思うし、ドキドキしちゃうこともあるし、だから」

「だから……まだ可能性はあるって? なにそれ、弱音吐いたから慰めてくれてるつもり?」

 先を予想した言葉に、詞幸は頷かない。が、否定もしなかった。

「バカにして! そんなん言われなくたってウチはアンタのことおとしてみせるんだから!!」

(ぐえぇ~~~~~! ツンデレで胃もたれするぅ~~~~~~~~~~!)

 甘酸っぱい青春のワンシーンの横で、香乃は吐き気を必死に堪えるのだった。

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