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第204話 ぬいやけ⑥

 胸を叩いて水を飲み、肩で息をしてからようやっと、二人は突如投げ込まれた爆弾に対処することができた。

「いいいいきなりなに言ってんの!? てかなんでこのタイミング!?」

「やっぱりあれって告白だったの!?」

「違うから!! あれはなんていうか、あの、その――とにかくあれなの! それはあれなの!!」

「どれなのさ!!」

 しかし『対処』といっても気が動転している彼らには上手く話をまとめることができない。

 この場で冷静なのは香乃(かの)だけだった。

「思ったとおり。その様子だと、お祭りのときになにかあったんですよね? あれ以来、お姉ぇの様子がなんか変で――いや、その前からちょいちょいおかしかったんですけど――それって、先輩がお姉ぇに冷たい態度を取ったからじゃないんですか?」

 彼女の目は真剣だった。

 大切な家族が苦しんでいるのならば力になりたいという強い意思が伝わってくる。

 詞幸(ふみゆき)としてもその意思には誠実に応えたかったが、しかし、彼女との間には認識の齟齬があるのだ。

 あるいは、彼女と彼女との間にも。

 それを正さなければ、話は進まない。

「詩乃さん、誤魔化さないでハッキリ聞かせてよ。香乃ちゃんの前だと話しづらいだろうけど」

「そーそー。あたしだってお姉ぇのこと心配して言ってんだしさ」

「あぁ~~~、もうっ! なんでこういう流れになんの!?」

 詩乃(しの)は乱暴に箸を置いた。髪を掻きむしると、今度は弱々しく呟く。

「まぁ、いつまでも誤魔化せるようなことでもないけどさぁ……」

 俯き、髪先を弄ぶ彼女の顔は赤い。

 心の準備をしているのだろう、「すー、はー」と深呼吸を何度も繰り返した。

 その緊張が伝染したかのように詞幸も硬い顔で、手を膝の上に乗せて傾聴の構えを取る。

「よし」

 小さく頷き顔を上げた詩乃の瞳は潤んでいた。

 その中には、挑むような、恥ずかしさを堪えているような、そんな光が揺れている。

 しかしそれは、揺らめきながらも確かに灯る、熱い熱い想いだった。

「ウチはね、アンタのこと、全然好みじゃないし、ダサいし、カッコ悪いと思ってるけど、」

 ズルズル

「からかい甲斐があって、お人好しな詞幸のことが――好き。恋しちゃってる」

 ズルズルズルッ

「一緒にいるのが嫌じゃないし、もっと一緒にい――」

 ズルズルズルズルッ!

「ああもう、さっきからうっさい! いま真面目な話してんだからそうめん啜んのやめなさい!」

「うぅ~、このネギからい~」

「知んないし! アンタから話振ってきたんだから邪魔しないで静かにしててくれる!?」

 決意を込めた告白は、ヌードルハラスメントによって最低なものになってしまったのだった。

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