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第203話 ぬいやけ⑤

 四角いテーブルに詩乃(しの)香乃(かの)が姉妹で並んで座り、詞幸(ふみゆき)は詩乃の向かいに腰を下ろした。

 そしてテーブルの上に並ぶのはそうめんとゴーヤチャンプルー。夏らしい組み合わせである。

「え~っ、ゴーヤぁ~~~~!? あたし苦いの嫌いなんだけどぉ~~~~! お客さん来てるんだからもっと豪勢なのにすればよかったのにぃ~~~!」

 文句を口にした香乃の足を詩乃がペチンとはたいた。

「こら、好き嫌いすんじゃないの。体にいいんだからしっかり食べなさい」

「別にあたし健康じゃなくていいもん。人生太く短く、身体に悪くても美味しいものだけ食べて生きたいよ~」

「ったく、自分じゃ作れないクセに文句ばっか言って……。ウチだって別に長生きしたいわけじゃないし健康自体はどーでもいいけど、健康じゃないと可愛くなれないの。偏食は太るし肌と髪のハリツヤもなくなるんだから、モテたいならしっかり食べなさい」

「むぅ~~~…………」

 香乃は口を尖らせた。姉の言葉が正しいとわかっているのだ。しかし、正論だからといって唯々諾々と受け入れられるほど彼女は大人ではない。

「こういうダイエット食っぽいのばっかりだからあたしも胸が育たないんじゃん。お姉ぇみたいにBカップ止まりなんて嫌なんだけど」

 バチン!

「いった~~~ッ!」

「余計なこと言いすぎ。少しは静かにしなさい」

 今度は思い切り叩かれ、香乃は足をさすっている。

「はははっ、二人とも仲がいいねえ」

 微笑ましい団欒風景に詞幸は目を細めた。

「そんなことないけど……ごめんね、みっともないとこ見せちゃって」

 苦笑する詩乃。

「そんなことより早く食べよ? はい、いただきま~す」

 そのまま誤魔化すように箸を手に取った。

 妹と仲がいいと知られて照れくさいのだろうと思い、詞幸もそこを話の切れ目として、いただきますをした。

 彼がまず手を付けたのはチャンプルーだ。

 詞幸もゴーヤが得意な方ではないが、出汁の利いた豆腐、卵、そして豚肉と一緒に食べると、そのほろ苦さがアクセントとなった。

 咀嚼から嚥下までの間、チラチラと視線を感じたが、それが感想を期待してのものであることは言うまでもない。

「詩乃さん、美味しいよ」

「そ、よかった……」

 詩乃が安堵の表情を見せ、嬉しそうに口の端を上げながらそうめんに箸を伸ばす。

 香乃が質問を口にしたのは、詞幸もそうめんを啜り始めたところだった。

「それで、なんでお姉ぇの告白にちゃんと答えないんですか?」

「ブホっ、ゴホっ!!」「ん、んーッ!!」

 詞幸が噎せ、詩乃は喉に麺を詰まらせそうになる。

 そのたった一言で、食事を囲んでの安らかな団欒が、逃げ場のない騒乱へと発展するのであった。

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