第19話 上ノ宮御言の策略①
「ところでまだアタシたちだけか? ほかのヤツらは?」
愛音は猫柄のスマホケースを開き、いじりながら気怠そうに言う。
話術部員は全部で5人。愛音たち以外にもあと二人の部員がいるはずだが、部室内を見回してもほかの人影はない。荷物もないため、ちょっと外に出ているだけ、ということもなさそうだ。
「お二人なら用事があるから今日は休むと連絡がありましたよ」
「もう、まったくあの子たちは……」
季詠が困り顔なのに対し、御言はあくまでもにこやかだ。
「わたしは別に構いませんよ? その分の罰を受けていただければ」
甘い香りで誘い、獲物を捕らえて喰らう食虫植物。
詞幸は彼女の微笑みに、どことなく近いものを感じた。
「…………上ノ宮さんって優しい人かと思ったら結構ハードな性格してるね」
隠れるように愛音に囁きかける。
「ああ……甘い顔に騙されると痛い目見るぞ。注意しろよ」
「うふふ。聞こえていますよ、二人とも」
カクン、とマリオネットのように不気味な動きで首が向き、揃って竦み上がる。
「「ひっ」」
「こらこら、ふざけないの」
季詠は手を叩いて話に区切りをつけさせた。
「そんなことより、人数が少ないんだから早めに始めないと終わらないわよ」
「? なにするの?」
「この部屋の掃除ですよ」
言われて、改めて室内に首を巡らせる。
社会で活躍するためのコミュニケーション能力を鍛えることが本来の目的である部というだけあって、奥の壁に据えられたキャビネットにはビジネス書と思しきものが並んでいる。
併せて『○○年度○学期資料』と書かれた太いバインダーもビッシリ収められていた。
それらが多すぎて入りきらなかったのだろう、床には大きな段ボールが3,4個転がり、中には本とバインダー類が無造作に詰め込まれている。
それ以外にも愛音たちの私物と思しき漫画雑誌やお菓子の箱などがちらほら。
「なるほど、これをどうにかすればいいんだね」
雑然とした現状を認識して、活動内容にさしたる疑問も持たず、これ見よがしに腕まくりをする。
「力仕事なら任せてよ」
無駄に力こぶを作り、ちらちらと愛音を見る。
「おう、頼りにしてるぞ」
詞幸の筋肉アピールを気にも留めず、愛音はニマニマしながらこれで楽ができる、と小さくガッツポーズをとった。
「………………」
そんな二人のやり取りを見ていた御言は、
「うふふ、そういうことですか」
口元だけでニタリと嗤うのだった。